
マラソン後のリカバリー術:ゴールを切ったらすべきこと
リカバリーは、ゴールラインを踏み越えたときから始まります。マラソン後のリカバリーのしかた、ランニングを再開するタイミング、身体を確実に立て直していく方法について、OACヘッドコーチ、デイゼン・リツェンハインのアドバイスを交えながら分かりやすくご紹介します。
何か月もトレーニングに打ち込み、スタートラインに立つ。未知の限界すら乗り越えて、ついにマラソンを完走した時の特別な気分……。けれど、動きを止めた瞬間から何かが変化し始めます。人々の歓声が薄れていく頃、アドレナリンの分泌も低下し、身体に注意を向けるようにというシグナルが出始めます。そしてここからがマラソン後のリカバリーの始まりです。
目に見えないところで多くのことが起きています。筋線維には何千もの微小な断裂が生じ、身体の主要なエネルギー源であるグリコーゲンの蓄えはほぼ底をつき、炎症が次第に拡大しているのです。
On Athletics Club(OAC)ヘッドコーチのデイゼン・リツェンハインは、「トレーニングのしすぎではなくリカバリー不足が問題だとよく言われますが、ある意味、確かにその通りですよ」と指摘します。マラソン後の最初の48時間は、それに続くすべてのこと――いつ運動を再開できるか、1週間後の体調、今後の身体の適応力など――に影響するのです。
リカバリーは直線的ではなく、人によって進み具合も異なります。ここでは、マラソン後のリカバリー方法を週単位で説明していきます。ランニングの再開に向けて、身体を徐々に無理なく整えていきましょう。厳格な決まりはありません。あくまで参考ガイドとして活用してください。
マラソン直後:0~24時間以内
動き続けましょう。長く走ったり、速く走ったりする必要はありません。ウォーキングをすればOK。10~15分の軽い運動をすれば血行が保たれ、脚の疲労回復に役立ちます。また、できるだけ早く汗をぬぐって身体を温めること。動きを止めると体温は急激に下がります。
快適でサポート力のあるシューズに履き替えましょう。Cloud 6なら疲れた足を心地よく休ませてくれます。
そのうえで水分を補給します。電解質も合わせて摂取しましょう。スポーツドリンク、ココナッツウォーター、効率的に水分や塩分を補給できるタブレットなどがおすすめです。また食べることも忘れずに。エネルギーの蓄えを取り戻すために炭水化物を、そして身体の修復作業を進めるためにタンパク質を摂ります。バナナ、プロテインバー、チョコレートミルクなどが、本格的な食事までの間、小腹を満たすのに手軽で便利です。
そして夜はぐっすり眠りましょう。今日すべき最も生産的な仕事は睡眠です。
ストレッチとモビリティエクササイズ
筋肉は疲労しています。ストレッチをして軽めに身体を動かすと、すばやいリカバリーに役立ちます。ただし無理は禁物。大事なのは血行を促進しリラックスすることであり、徹底的にすることではありません。
主なストレッチは次の通りです。
- ハムストリングのストレッチ:片足を低めの段差に乗せ、やや前傾姿勢になってハムストリングスを軽く伸ばします。
- 大腿四頭筋のストレッチ:片方の足首を後ろでつかみ、大臀筋の方にゆっくり引き寄せ、大腿四頭筋を伸ばします。
- 片膝立ちストレッチ:片足を前に出し、もう片方の足の膝を地面につけたまま腰を前に押し出して、股関節の屈筋を伸ばします。
- フォームローリング:フォームローラーを使ったストレッチは、硬くなった筋肉をほぐし、柔軟性を高めるのに効果的。ふくらはぎ、大腿四頭筋、ハムストリングスを重点的に伸ばしましょう。
- ふくらはぎのストレッチ:両手を壁につけ、片足を後ろに引いて、かかとを床にしっかり押し付けます。そのまましばらく静止し、呼吸したら、もう片方の足に切り替えます。
マラソン後の栄養補給
レースが終わった瞬間から身体の立て直しが始まります。そこで重要になるのが栄養補給。
消耗したグリコーゲンの回復に役立つのは全粒穀物、サツマイモ、米などの複合炭水化物です。一方、筋肉の修復には、卵や鶏肉、豆類などの低脂肪タンパク質が基本の材料となります。マラソンが終わった後の最初の食事では、この両方を摂取しましょう。
マラソンのための栄養を終了直後の数時間に摂るのは、他にも理由があります。激しいレース後は免疫機能が一時的に低下しており、その間の健康を維持してくれるのが栄養価の高い食品なのです。葉物野菜や柑橘類、ナッツ、種子類をリカバリーのための食事に積極的に加えましょう。
睡眠の重要性
実際にリカバリーが進むのは睡眠中です。深く眠っているときこそ、筋肉の修復を最も促進する成長ホルモンが分泌されるためです。レース直後の数日は夜間8~9時間の睡眠を心がけましょう。また、それ以上眠りたいと感じたとしても不思議ではありません。
デイゼン・リツェンハインはこのことを目の当たりにしてきました。彼は五輪出場経験もあるOACのヘレン・オビリを「リカバリーの名人」と呼んでいます。
「ヘレンは大半のアスリートよりもハードな練習に耐えられますが、同時にリカバリーも誰よりも上手です」とリツェンハイン。「日に2回昼寝をし、夜も熟睡しています。睡眠は何よりも優先すべきです」
多くの人にとって1日に2回昼寝をすることはなかなか難しいですが、夜に熟睡することは可能です。寝室は涼しく暗く保ち、就寝前のスクリーン使用も控えましょう。睡眠は、日中のマラソントレーニングと同じくらい注意を払うべきものです。
アクティブリカバリー:マラソン終了後の2~7日間
この期間は、今までにないほど身体のこわばりを感じるでしょう。アクティブリカバリーは、リカバリー中の筋肉に過度な負担をかけることなく体を動かして、血流をよくする穏やかな方法です。
この週は次のような軽めの運動をしましょう。
- ウォーキング:短時間、頑張らず、目標を立てずに歩きます。
- 水泳:ゆっくりと負担のないペースで泳ぎます。
- リストラティブ・ヨガ:呼吸とモビリティを意識しましょう。
- 軽めのサイクリング:平坦な道を楽なペースで。
ひとつ慎重にすべきなのは、ディープティシューマッサージです。炎症を起こしている筋肉を、あまり早い段階で無理に動かせば、修復が遅れます。少なくとも4~5日目まで待ちましょう。そしてやる時は、リカバリーの進捗状況を担当の施術者に伝えてください。
逆テーパリング:マラソン終了後の8~14日間
2週間も経てば、身体は再び運動する準備が整いますが、フル稼働はまだもう少し先です。これは逆テーパリングの期間と考え、3~4週の時間をかけながら徐々に走行距離と強度を増やしていきましょう。まずは3~5kmを楽なペースで走り始めます。その際、確実に無理のない楽なペースを守ること。心拍数と、自覚できる疲労感を目安にするといいでしょう。もしも想定よりもきつく感じるなら、ペースダウンが必要です。
この時期はまだ、新しいトレーニングブロックを始めたり、クロストレーニングを詰め込みすぎたりしないように。早い段階でランニングの練習をしすぎると、過大な負荷となり、怪我につながります。
もしも全体的な疲れではなく、特定の部位に痛みが続く場合は、運動量を増やす前に理学療法士に相談してください。問題は小さいうちに対処するほうが、放置して深刻化するよりもはるかに得策です。
マラソン終了から2週間
トレーニングがまたトレーニングらしくなってくるのがこの時期です。軽いインターバル走や、少し長めのランなど、意識的に負荷をかけた練習をしていきましょう。まだレースペースに戻す段階ではありませんが、自分の身体能力を再確認できる強度の運動を行います。大まかな目安として、週の走行距離の増加率は10%以内に抑えます。
また、新しい目標を立てるなら今が絶好のタイミング。次のレース、新たな距離への挑戦、あるいは継続的に走るという決意など、モチベーションになるものを探してみましょう。
怪我予防のための筋力トレーニング
ランナーにとって、筋力トレーニングは最も効果的な怪我予防策の一つ。特に下肢のレジスタンストレーニングをすれば、ランニング効率が上がり、怪我リスクの軽減にも役立ちます。少し鍛えるだけで大きな違いが生まれます。
筋力トレーニングは2週目か3週目になってから始めますが、まずはシンプルなものにとどめましょう。現時点の目標は、修復モードに入った筋肉に働きかけ、活性化することです。
- グルートブリッジ:臀筋を活性化し、骨盤を安定させます。
- カーフレイズ:長距離走で多大な衝撃を受けるふくらはぎの筋肉群を再強化します。
- 片足立ち:プロプリオセプションと足首の安定性を回復します。
- バンデッド・クラムシェル:膝の軌道を保つのに重要な股関節外転筋群を鍛えます。
- デッドバグ:背骨に負担をかけずに深層筋の安定性を高めます。
いずれも回数は少なめにし、正しいフォームに意識を向け、徐々に負荷を上げていきます。このようなトレーニングにまさに最適なのがCloudpulse Proです。筋トレに必要な安定感があり、優れたグリップと接地感で、リカバリー中の足の自然な動きを促します。
モビリティトレーニング
マラソンを走った後は、筋肉と同じく関節や結合組織にも十分なケアが必要です。モビリティトレーニングはスポーツパフォーマンスを改善・維持し、長期的なパフォーマンス低下リスクを最小限にとどめるということが、ある調査で明らかになっています。
頻度としては、週に数回、10分から15分程度行えば十分。ウォーミングアップに組み込むか、または単独のセッションとして取り組みましょう。継続こそが成功の秘訣です。
- ヒップ90/90ストレッチ:股関節の回旋筋群をほぐし、長距離走で蓄積したこわばりを和らげます。
- アンクルサークル:一歩踏み出すごとに衝撃を吸収する関節の可動域を回復します。
- 胸椎回旋:上半身の可動域を広げ、ランニングのフォームを改善します。
- ハトのポーズ:マラソントレーニング中に著しく緊張する臀筋と股関節屈筋を重点的に鍛えます。
- ワールドグレイテストストレッチ:一連の動きを通じて股関節、胸椎、足首を同時に鍛えられる全身運動です。
レース後のメンタルケア
ゴールラインを踏み越えてから数日もすれば、高揚感は薄れ始めます。それに伴う気分の落ち込みは、多くのランナーにとって予想外の現象ですが、ポスト・レースの憂鬱というものは確かに存在します。
レクリエーション目的の持久系アスリートを対象とした研究が明らかにしたように、レース後のメンタルの状態は高揚感、喪失感、虚無感、気力の低下など様々です。ランナーがどのような状態になるかを予測できる要因の一つは、レースそのものを超えた目標や視点を持っているかどうかでした。 確かにそれは理屈に適っています。マラソンのトレーニングは計画性や習慣、仲間とのつながりを与えてくれるもの。何週間にもわたるトレーニング中は長距離走、ワークアウト、リカバリーを繰り返します。ところがそれが突然、途絶えるわけです。たとえレース本番で好成績を出したとしても、その変化は唐突に感じられることでしょう。けれど、ゴールを切ったからといって、それまでの数か月の努力が消えてしまうわけではありません。リカバリーが必要なのは肉体だけではありません。長いトレーニングと本番の後、違うリズムに順応していくこともリカバリーの目的の一つです。
マラソン後のリカバリーが重要である理由
マラソンの影響は、ゴールを切った後も身体に残ります。レースに出れば、全身に次のような負担がかかります。
- 臓器系へのストレス:レースの後は、心臓、腎臓、そして免疫系が普段以上に活動しています。十分な休息と栄養を摂れば、ほとんどの場合、1週間以内に通常の状態に戻ります。
- ホルモンの変化:マラソン終了後の数時間は、コルチゾールの値が上昇し、テストステロン値が低下します。リカバリーを優先すればホルモンバランスが整い、疲労が長引くのを抑えることができます。
- 免疫力の低下:ゴール通過後、免疫機能が一時的に低下します。これを元に戻すには、睡眠、栄養、ストレスの適切な管理が鍵となります。
- 筋骨格系の修復:ランニングによる怪我のほとんどは、ランを再開するのが早すぎたときに起こります。ゆっくりと徐々に再開していけば、筋肉や腱、関節に必要な休息をしっかり与えることができます。
- 睡眠の乱れ:レースの前だけでなく、レース後もよく起きる現象です。数日間はとにかく休息を第一に考えましょう。リカバリーのためにやるその他すべてのことの土台になります。
身体は驚くほど回復力に富んでいます。だから身体が必要とするものを与えればいいのです。そうすれば、いっそうパワーアップできるでしょう。
自分に合ったペースでリカバリー
マラソン後のリカバリーは人によって違いがあります。完璧なスケジュールや、「元に戻った」と感じられる時期についての絶対的なパターンはありません。リカバリーの進み具合は、トレーニングの負荷やレースの難しさ、睡眠、ストレス、栄養状態、そして自分の身体が長期的疲労にどう反応するかに左右されます。 ランナーの中には、数日後にはまた走り出したくなる人もいれば、脚や神経に何週間もだるさを感じる人もいますが、どちらもごく普通のこと。
「マラソン後のリカバリーは、すればするほどいい。マッサージ、理学療法、栄養補給、休養のどれも効果的です」とリツェンハインは言います。「普段の生活ではリカバリーにも限界があるでしょうが、どんなセッションでも終わった後は休みが必要です」
目的はトレーニングをすばやく再開することではありません。これまでの努力に自信を持ちましょう。身体の声に耳を傾け、徐々に運動を再開し、走りたい気持ちが自然に湧いてくるのをゆっくり待つのがベストです。
よくある質問
リカバリーはどれくらい時間がかかるもの?
多くのランナーは2~4週間で元の状態に戻ったと感じますが、ひと月以上経たないと完全にリカバリーできないこともあります。その違いは、個々人の体力レベルや、レースの状況、そしてレース後の数日間にどれだけ身体をサポートできるかにかかってきます。ここで紹介したスケジュールは厳格なルールではありません。一つの目安として活用してください。
マラソン後のリカバリーに最も効果的なことは?
基本は休息です。身体は何も負担をかけない時に最大の修復力を発揮します。そのうえで軽い運動とバランスの取れた食事、質の高い睡眠を心がければ、リカバリーのプロセスは順調に進みます。特効薬はありません。基本をしっかり守ることが何より大切です。
マラソン中、身体には何が起きている?
42.195kmを走ると、グリコーゲンの蓄えが枯渇し、筋肉に微細な損傷が無数に生じ、全身の炎症を引き起こします。リカバリーはそれを元通りにすることを意味します。
マラソン直後の48時間、身体にはどのような変化が起きる?
最初の48時間、身体は全力で修復作業に取り組んでいます。炎症がピークに達し、筋肉の修復が徐々に進む一方、免疫機能は通常よりも低下しています。疲労感、筋肉痛、睡眠の乱れはすべて正常な反応です。
マラソンを走った後、身体が痛むのはなぜ?
その痛みは遅発性筋肉痛(DOMS)と呼ばれます。42.195kmにわたって繰り返された衝撃により筋繊維に何千もの微小な損傷が生じ、そのために通常はレースの終了から24~72時間に最も痛みがひどくなります。しかしこれは正常なことで、身体がすでに回復に向けて働き始めている証拠です。
筋肉痛は冷やす方がいい?それとも温める方がいい?
最初の24~48時間は冷却療法がベストです。炎症を抑え、急性の筋肉痛を和らげるのに役立ちます。一方、サウナなどの温熱療法が威力を発揮するのは数日後から。血行を促し、こわばった筋肉をほぐしてくれます。
マラソンの翌日に走ることは可能?
可能です。しかし、おすすめはしません。筋肉、腱、関節がまだ回復の初期段階にあるので、いきないランニングを再開すれば怪我をする恐れがあり、リカバリーも遅れます。最初の数日間は短時間のウォーキングの方がはるかに効果的です。
マラソンが終わった後、マッサージを受けるべき?
はい。しかしタイミングを間違えないでください。最初の数日間に深層組織への施術を行うと、すでに炎症を起こしている筋肉の状態がいっそう悪化する恐れがあります。本格的なマッサージは4日目か5日目まで控えてください。それまでは、やさしい軽めのマッサージであれば問題ありません。血行促進にも役立ちます。
ウォーキングはマラソン後のリカバリーに効果的?
マラソン後の数日間、特におすすめなのがウォーキングです。血行を促し、老廃物の排出を助け、長時間同じ姿勢でいることによるこわばりを防ぎます。短時間、楽なペースで歩くといいでしょう。



