

自身も熱心なランナーとして走り続けるトールビョーン・ヨハンソン氏とカリン・ベッヘル氏の2人が、ランニングの持久力を高める方法について役立つ知識とヒントを紹介します。異なるトレーニング方法のメリットや、ランニングのパフォーマンスを向上させるために本当に必要なものについて掘り下げました。
ランニングの素晴らしさは、そのシンプルさと自由度にあります。しかし、ランニングのパフォーマンスを一つ上のレベルに引き上げるには、古い習慣を断ち切り、目的別にさまざまなトレーニング要素を取り入れ、レース当日に向けて体を「ステップアップ」させる必要があります。そのためには、トレーニングの原理や原則を理解することが大切(この後説明します)。そうすれば、持久力アップに向けて意識的かつ効率的に取り組むことが可能になります。はじめに、トレーニングに関する2つの重要な原理について話をしましょう。
体には、トレーニングのような外部からの刺激に対する適応能力が備わっています。そのため、体の筋力がアップしたあとも同じ負荷でトレーニングをしていると、効果が頭打ちになってしまいます。トレーニングの強度やかける時間を調整して徐々に負荷を高め続けると、体が常に刺激を受け、継続して効果が現れます。
ポイント: トレーニングの強度や負荷を強めたり、種類を変えたりして、負荷を与え続けること。 // 取り入れ方:インターバルセッションや筋力トレーニングなど、新しいチャレンジを取り入れてトレーニングプログラムを充実させる。例:陸上トラックでのインターバル走、丘でのジャンプやヒルスプリント。
トレーニングは、体を強化し持久力を高めるために体に負荷を与える刺激に過ぎません。パフォーマンスの向上が実際に起こるのは、リカバリー中なのです。ここを理解しておくことが大切です。リカバリーのための十分な時間を確保し、バランスの取れた食事でしっかりと栄養を補給することで、体はトレーニングで受けた刺激を「消化」し、それが体の強化に繋がります。トレーニング計画の中にリカバリーと休養の時間をしっかりと組み込むことは、パフォーマンスアップへの近道になるだけでなく、オーバートレーニングやけがの防止にもなります。休んでいる間にパフォーマンスが上がると覚えておいてください。
ポイント:パフォーマンスの向上はリカバリー中に起こる。厳しいトレーニングの効果を残さず享受するためにも、リカバリーの時間をしっかりと取ることが重要。 // 取り入れ方:休息の日を楽しむ!高負荷のインターバルトレーニングは、セッションとセッションの間に十分なリカバリーの時間を確保するよう、注意が必要。ハードなトレーニングは3日に1回のペースで行うのが目安。
原則を理解したところで、パフォーマンスとトレーニングの効果について詳しく見ていきましょう。
VO2maxは、運動中に体内に取り込まれる酸素の最大量を示す、全身持久力の指標となるものです。これは、心臓のポンプ機能が大きく関係しており、骨格筋のように高負荷のトレーニング(ジムではセット、持久系スポーツではインターバル)で鍛えることができます。高強度インターバルトレーニング(HIIT)が、長距離低負荷運動(LSD)や乳酸性作業閾値を高めるトレーニング(LT)などの他のトレーニング形式よりもVO2maxを効率的に鍛えることができるのは、科学的にも十分証明されています。HIITの一般的なやり方としては、数分間の高強度インターバルセッションを4~6回繰り返したり、15~30秒の短いスプリントインターバルセッションを数回(10回もしくはそれ以上)繰り返します。
取り入れ方:週に何度か、一定の高強度で4×400mのインターバル走を行うなど、定期的にインターバルセッションを取り入れる。
乳酸性閾値(LT)とは、アスリートがレースなどの長時間にわたって持続的に維持できる最大酸化作用のレベルです。VO2maxと同じ持久系運動パフォーマンスのレベルを反映する値で、このLTを引き上げていくことが持久力向上につながります。
LTを鍛えるには、一般的には長い距離をゆっくりと時間をかけて走る長距離低負荷運動(LSD)を行います。LSDは通常、VO2max(あなたのおおよその最大心拍数)の60~75%程度で行います。エリートクラスの耐久アスリートになると、トレーニング時間の75%をLSDに費やしています。その理由は、インターバルトレーニングよりも遥かに短いリカバリー時間で、繰り返し行うことができる穏やかなトレーニングだからです。また、異なるスポーツや高強度な運動と組み合わせることも可能です。
最近の研究では、HIITがLTの向上にもつながることが明らかになっています。つまり、インターバルトレーニングで、VO2maxとLTの両方を向上させることができるのです。HIITは時間効率も良いですから、トレーニング時間の限られるアマチュアランナーの持久力トレーニングに最も多く取り入れるべきでしょう。
取り入れ方:それぞれのトレーニングセッションと、個々のセッションの目的を明確に区別する。インターバルを行う場合は高強度で行い(感じる運動強度:高~超高)、長距離トレーニングを行う場合はゆっくりと行う(感じる運動強度:低~中)。
持久系のパフォーマンスを向上させるためのトレーニングで重要となる最後のポイントは効率性です。トレーニングにおけるエネルギーコストや、スポーツの技術的な効率性のことを指します。エネルギーがどれだけ必要になるかは、運動の種目によって変わります。例えばトレイルランニングは、競技用トラックでランニングをするよりも、よりたくさんのエネルギーを使います。ただ運動の効率性は、ランニングドリルなどの目的別トレーニングや、時間とともに培ってきたスキルによって改善が可能です。
取り入れ方:持久系トレーニングのはじめに、ランニングドリルや水泳の練習などでテクニックの向上に集中することで、運動の効率性を高めることができます。
a.単調なトレーニング習慣に囚われることなく、さまざまなエクササイズや新しい挑戦を取り入れ、バランスの良いトレーニングを目指す。
b.リカバリーの力を軽んじない!
c.持久力を上げるための複数の要素を鍛えることができる、時間的にも効率の良いHIITセッションを取り入れる。
d.ランニングドリルを取り入れてテクニックを磨く。
最後になりましたが、トレーニングは科学以前に、楽しく、活力を与えてくれるものだということを忘れないでください。これは大切なことです。偉大な作家でありランニング愛好家でもある村上春樹氏は、ランニングについてこう書いています。