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トライアスロン・ガイド:トレーニングから​​レース、​​注目の​​プロ選手まで​​

トライアスロンと​​いう​​競技の​​基本と、​​世界的に​​活躍する​​スター選手たちを​​ご紹介。​​ニースと​​コナで​​開催される​​世界選手権や、​​次世代の​​有力選手た​​ちが熱狂する​​パフォーマンスの​​舞台​​裏をの​ぞきました。

文:Laura Markwardt 動画:Santara Group  写真:Santara Studios、Uptrack

「トライアスロンのおかげで新たな夢ができました」と語るのは、チェルシー・ソダーロ。2017年に中・長距離走からトライアスロンのプロに転向した米国出身の彼女は2022年、ハワイのコナで開催されたアイアンマン世界選手権で8時間43分46秒という見事なタイムで優勝を飾りました。アイアンマン・ディスタンス・トライアスロン2度目の出場での快挙でした。そして2024年9月、35歳になったソダーロは、フランス・ニースでのアイアンマン世界選手権で3位入賞。「全力を出し切りました。この素晴らしい競技に参加できることを誇りに思います」と彼女は言います。

ノルウェー出身のトップトライアスリート、クリスティアン・ブルンメンフェルトも、人気の高まるこのスポーツの先駆者として名を刻むべく、苦しみを乗り越え挑戦し続けるプロの一人。「トライアスロンはまだ歴史が浅いですから、私たちが道を切り開かねばなりませんでした」と、元ウルトラエンデュランスアスリートのリッチ・ロールに語っています。その道を共に走るのが、友人でトレーニングパートナーでもあるグスタフ・イデン選手。2022年にハワイ・コナのアイアンマンコース記録を樹立しました。7時間40分24秒というこの記録は、いまだ破られていません。 2024年9月に中央アジア・ウズベキスタンで開催された大会「チャレンジ・サマルカンド」では、ブルンメンフェルトとイデンがそれぞれ金と銀メダルを獲得。「ノルウェーの機関車(Norwegian Train)」の愛称でファンに親しまれるこの2人は、翌10月、トライアスロンの最高峰であるコナ大会のスタートラインに再び立ちます。

「この素晴らしい競技に参加できることを誇りに思います」

勝利をかけて汗と涙の闘いを繰り広げる。そんなトップトライアスリートたちの姿を見ていると、鍛え抜かれた戦術と高度な技術を駆使して人間の持久力の限界に挑戦するトライアスロンというマルチスポーツに対する理解も深まっていきます。 

このガイドでは、トライアスロンという競技とそのトレーニングについて、そして地元イベントからコナ、ニースなどの世界選手権大会に至るトライアスロンレースへの参加方法について説明します。初心者も、ハーフやフルディスタンスのレースに向けてトレーニング中の方も、ぜひ参考にしてみてください。

トライアスロンとは?

トライアスロンは多種目競技で、水泳、自転車、長距離走の3種目を連続して行います。距離にもいくつかの種類があり、一番短いものはスーパースプリント、最も有名なフルディスタンスのレースはアイアンマンと呼ばれます。レースには、世界選手権やT100トライアスロン・ワールドツアーの常連であるソダーロやブルンメンフェルト、イデン、アシュリー・ジェントルジュリ・デロンケイト・ウォー、そしてフェネラ・ラングリッジなどのプロ選手から、それぞれの目標に向け挑戦するアマチュアまで、年齢も職業もさまざまなアスリートたちが参加します。


トライアスロンのディスタンス

-スプリントトライアスロン:スイム 750m、バイク 20㎞、ラン 5㎞

-オリンピックトライアスロン:スイム 1.5㎞、バイク 40㎞、ラン 10㎞

--ハーフアイアンマン(アイアンマン70.3):スイム 1.9㎞、バイク 90㎞、ラン 21.1㎞

-フルアイアンマン:スイム 3.8㎞、バイク 180㎞、ラン 42.2㎞

フルアイアンマンは、世界でも屈指の過酷な耐久レースとされています。毎秋ハワイのコナ、そしてフランスのニースという絶景の広がる土地で開催されるアイアンマン世界選手権には、ソダーロ、ブルンメンフェルト、イデンも出場し、伝説として語り継がれるパフォーマンスを披露してきました。 


トライアスロンに向けたトレーニング法

スイム、バイク、ランの3種目のきちんとした基礎を築くのに手っ取り早い方法はありません。元々サイクリングをしていたイデンはこう語ります。「何年もかけて質の高いトレーニングを大量にこなしてきたからこそ、今の私たちがあるのです」


初心者は、バランスの取れたトレーニングをしながら徐々に負荷を上げていくことが重要です。種目ごとのトレーニング法を見ていきましょう。

  • スイム:多くのビギナーにとって最も手強いのがこの種目でしょう。海や川などオープンウォーターと呼ばれる自然の中で泳ぐとなれば、余計ハードルが高く感じられるはずです。まずはきちんとした技術を身につけ、効率的な息継ぎを学びながら持久力をアップさせましょう。泳ぎのドリル練習は、水に慣れるのに効果的な方法です。

  • バイク:最初は自転車に慣れることを目指しながら段々に距離を伸ばしましょう。良質なフィット感を求めて投資することで、ケガもしにくくなり効率も上がります。

  • ランゆったりしたペースの長めのランインターバルトレーニングを組み合わせて走りを向上させましょう。異なる種目を連続で行うブリックトレーニングも効果的です。バイクに続いてランの練習をすることで、レース本番での身体の使い方も意識できるようになります。ノルウェー式メソッドトライアスロン界では、科学的根拠に基づいたデータ重視の「ノルウェー式メソッド」が話題になっています。ブルンメンフェルトとイデンは、コーチのオラフ・アレキサンダー・ブゥの下でこのトレーニングを行い優勝を勝ち取ってきました。


ノルウェー式メソッド

トライアスロン界では、科学的根拠に基づいたデータ重視の「ノルウェー式メソッド」が話題になっています。ブルンメンフェルトとイデンは、コーチのオラフ・アレキサンダー・ブゥの下でこのトレーニングを行い優勝を勝ち取ってきました。ノルウェー式メソッドでは、練習量と心拍数、力のアウトプット、乳酸閾値などの厳密な数値に注目しながら高強度でトレーニングを行います。「レースの距離に合わせて(有酸素)エンジンを最大化させることを目指します」とイデンは説明します。

「4~5年前は、やたらラボでテストしているくせに思うような結果が出ないと、嘲笑の目で見られたものです。でも最近は、周りの目が少し変わってきましたね」と語るのはブルンメンフェルト。「僕たちの成功は、これによるところが大きいですから」。ケタ違いのプロフェッショナリズムと科学的分析を取り入れながらレベルアップに励むプロのトライアスリートたちは、スイム、バイク、ランのさらなる高みを目指しています。

「質の高いトレーニングを大量にこなしてきたからこそ、今の自分たちがあるのです」

まずはどのような道具を揃えるべき?

最初から高価な装備にこだわる必要はありませんが、最低限以下のアイテムは準備しましょう。

- スイムギア:水温が低くても快適な、着心地の良いウェットスーツと質の良いゴーグル、スイムキャップ。初心者はまず室内プールで水に慣れてから、海や川などの自然環境で泳ぎを練習しましょう。

-バイク:最初は高級トライアスロンバイクなどではなくロードバイクで十分。乗りやすくて身体にぴったりくるバイクを選びます。   

-ランニングシューズ:自分のランニングスタイルに合った良質なランニングシューズに投資しましょう。ベストな靴ひもの結び方を研究したり、トレーニングで複数のシューズをローテーションするのもおすすめです。バイクを降りてすぐにレース本番用のシューズに履き替える「切り替え」の練習もお忘れなく。


慣れてきたら、クリップレスペダルやエアロバー(DHバー)、トライアスロン向けバイクなどの上級者向けギアの購入も一考の価値があります。


初めてレースに参加するまでにどのくらいトレーニングすべき?

グスタフ・イデンはこう言います。「みなさん、トライアスロンに関する知識はすでにお持ちです。でも結局は、それをどう実践に移すのかと、トレーニングの質が違いを生むのです」。つまり、どれだけ理論を頭に詰め込んでも、着実に練習を重ねないことには意味がありません。レースでどのディスタンスに出場するのか、また現在のフィットネスレベルによってもトレーニングの仕方は変わります。 


初めてスプリントディスタンスまたはオリンピックトライアスロンに参加するなら、レース前に約12~16週のトレーニングを行いましょう。初心者のためのシンプルな1週間のトレーニングプランを用意しました。

-スイム:2セッション(各30~45分)

-バイク:2セッション(各45~60分、慣れたら1回の時間をのばす)

-ラン:2セッション(各30~45分) [マラソントレーニングプランを参考にしてください]

- ブリックトレーニング(バイクからの切り替え):レース本番を想定してバイクとランを連続で行うブリック練習を1セッション。


より距離の長いハーフアイアンマンやフルアイアンマンに出場するなら、少なくとも6~9ヶ月かけて体系的なトレーニングを行う必要があります。モチベーションを維持するために、小さなゴールをいくつも積み重ねる形でトレーニング計画を練りましょう。トレーニングパートナーを作ると継続する意欲もわいてきますし、地元のトライアスロンクラブに入れば、仲間のサポートや励まし、ベテランアスリートからの助言ももらえるでしょう。 


トレーニングプランの多くは、リカバリーのために週1日の休養日を設けています。休みを取ることで、オーバートレーニング症候群やケガを予防できるのです。実際に泳ぎ、バイクを漕ぎ、走るのも大切ですが、それと同じくらいリカバリーも重視してください。 


レースでもトレーニングでも、小さな目標をクリアすることで達成感を味わいましょう。「負けず嫌いの僕にとって、スポーツは常に最高の “遊び” でした」と「鉄人王」ブルンメンフェルトは言います。


トライアスロンの大会はどのような流れで行われる?

トライアスロンレースには年齢別のカテゴリーがあり、選手は各自のエイジグループ内で競いあいます。レースは決まった順番で行われます。

-スイム:エイジまたはスキルレベルごとにグループ化され、時間差でスタートします。会場によって、プールまたは海や川などの「オープンウォーター」が使われます。

-T1(ティーワン):水から上がったらトランジションエリアに向かい、ここでバイク用のギアに着替えます。あらかじめきちんと準備して手早く切り替えることが重要です。

-バイク:コースによって地形が異なります。アイアンマンなどのレースイベントでは、他の競技者のすぐ後ろを走るドラフティング行為は禁止されています。

-T2(ティーツー):バイクから降りたらランニングシューズに履き替え、ランへとトランジションします。自分のペースを守り、エネルギーレベルをコントロールすることがカギとなります。

-ラン:レースの最後の種目、特に長距離のレースでは、フォームの維持とメンタルの強さが要になります。ここでは栄養と水分の補給もしっかり行わなくてはなりません。経験を重ねれば、次に待ち構えることを過度に心配せずに、その時々の種目に集中できるようになります。


「レースの重要な局面で、”その瞬間” にフォーカスすることが大切なのです」とブルンメンフェルトは語ります。

トライアスロン前・中・後の栄養と水分補給は何がおすすめ?

「一番大切なのは栄養と睡眠をきちんと取ることです」とブルンメンフェルト。

長期的に持続可能なトレーニングプランを練ると同時に、練習でも本番においても最適なレベルで力を発揮するのに必要なカロリーを把握しましょう。トレーニング後にエネルギー切れにならず、持久力セッション中に力尽きないよう十分なカロリー摂取を習慣づけることをイデンも勧めます。「身体が受け付ける限り(エネルギー源は)多く摂った方がいい」。トレーニングの間に、自分が必要とする栄養レベルがどの程度なのかをしっかり掴んでおきましょう。


トライアスロンでは練習でも本番においても栄養補給が絶対不可欠。補給は次のタイミングで行いましょう。

-レース前:炭水化物が豊富な食事(オートミールやピーナッツバタートーストなど)をスタートの2~3時間前に摂ります。一緒に水または電解質入りのドリンクも飲みましょう。

-レース中:スプリントディスタンスの場合は、水かスポーツドリンクがあれば十分です。もっと長い距離のレースなら、エナジージェルかバーを45分から1時間に一度摂るようにしましょう。

-レース後:ゴールから30分以内に炭水化物とタンパク質を組み合わせて摂取します。スムージーやプロテインシェイク、プロテインを豊富に取り入れたサンドイッチなどの軽食が手軽で便利です。

自分のペースでトライアスロンを楽しもう

トライアスロンは、挑戦することで自分を知り、成長に繋がる競技です。スイム、バイク、ランの3種目を極め、リカバリーや栄養補給の重要性を学ぶ。ニースやコナのゴールを目指すのも夢があります。でもトライアスロンの楽しみはレース出場だけではありません。そこに至るまでのプロセスも、このスポーツの醍醐味なのです。 

ソダーロは、自身の経験からこう語ります。「気がついたんです。ただ単にスタートラインに立つためのプロセスをこなしていくのではなく、そこへ至るまでの自分の歩みを大切にすることが良いパフォーマンスに繋がるのだと。だってそれ自体が感謝すべきことですから」