

本番で主導権を握るには、練習で自分を追い込むだけでは足りない――そう考えるアスリートが増えています。そこで注目されているのがヨガ。リカバリー、モビリティワーク、そしてヨガマットの上で集中力を養うことで、効果的にトレーニングできるようになり、パフォーマンスの向上へとつながります。


以前はアスリートにとって添え物的存在だったヨガ。現在ではトレーニングの中核的メニューとして組まれるようになりました。柔軟性のみならずレジリエンスを高め、リカバリーもサポート。ヨガを取り入れることで日常生活はもちろん、パフォーマンスにも好影響が期待できます。
米国人スプリンター、ケンダル・ベイズデンは、ヨガを始めとする低負荷の運動は、自分の可能性を最大限発揮する手助けになっていると言います。「フレキシブルであること、そして長い目で見ると害になるような無理をしないこと。このバランスを、自信を持って取れるようになりました」
Onアンバサダーを務めるランナー兼フィットネスコーチのイヴィー・ヴェナブルズさんは、ヨガには他とは異なる利点があると語ります。「ヨガは忍耐力やマインドフルネス、呼吸と体の動きの関係を教えてくれます。おかげで日常生活でも人に対して優しくなったし、穏やかに過ごせるようになりました」
ベイズデンのように自己ベストの更新を目指す人も、ヴェナブルズさんのように集中力を磨きたい人も、そして怪我からの回復途上にある人にも役立つ、トレーニングとマインドセットの両方を強化するヨガの効果をご紹介します。
「ヨガをすると、追われる生活から少し離れて、自分にもっと優しくなろうと思えます」と話すヴェナブルズさん。「そう言うと、まるで進歩を諦めたみたいに聞こえるかもしれません。でも年齢を重ねるごとにこう思うようになりました。メンタル的にも肉体的にも本当に進歩したいなら、こういう時間は絶対に必要なんだ、と」
静的または動的なヨガをすることで常に最高の自分を引き出せるようになります。
ヨガは柔軟性と可動性を高めます。ランナーの場合、股関節がほぐれているとストライドがスムーズに。テニスプレーヤーであれば、肩の力を抜いて強力なサーブを打てます。ランナーにとって特に嬉しいのは、スピードが向上すること。あらゆる動きが滑らかで自然に流れるようになり、どんな動作も効率的にこなせるようになるのです。
プランク、ブリッジ、コントロールをきかせたホールド。これらの動きはどれもヨガにも登場します。つまりアスリートはヨガを取り入れることで、関節に負担をかけることなく体幹や安定感、持久力の改善につながる機能的な筋力を鍛えられるのです。こうして身についた強さとパワーは、どのような競技にも活きてくるはずです。
重点的にストレッチを行い、規則的な呼吸を心がけることで痛みが和らぎ、修復もスピードアップ。通常はトレーニング後に行うリカバリーヨガでは、練習後の張りを和らげ、次のセッションに向けて体を整えます。
ベイズデンはリカバリーのためのワークアウトを重視していると語ります。「おかげでランニングがさらに楽しくなりました。身体をリラックスさせるのにも元気を取り戻すのにも、たっぷり時間をかけるべきです。人間の身体は激しいトレーニングをひたすらこなすようにはできていませんから」
ヨガはある意味、怪我の予防のためにあるといっても過言ではありません。柔軟性や関節の安定性が高まり、筋肉のバランスも改善。ちょっとした不調が大きな怪我につながらないようにする健康チェックの役割も果たします。身体のバランスがとれることで、競技でもしなやかで持続的なパフォーマンスを実現できるようになります。
ヨガは体と同じくらい心も鍛えます。正しい呼吸法で神経が落ち着き、決断力も磨かれて、プレッシャーがかかっても動揺しなくなります。ベイズデンは、ヨガがきっかけでトレーニングにも変化があったと言います。
「ランナーとしての技術を身につけることで、他では得られない高揚感を味わえます。でもそこにたどり着くには、精神と肉体がしっかり結びついていなくてはなりません。ヨガを始めてから、それが理解できるようになりました」
そしてマットの上で培った心の平静は、コートやトラック、フィールド、その他さまざまな場面で自分が試される瞬間に活きるはずです。


可動性を高め、筋力を強化し、リカバリーを促すヨガは、多種多様なスポーツに相乗効果をもたらします。それぞれの種目でベストパフォーマンスを発揮できるようになる万能ツールなのです。
- ランニング:柔軟性を高め重要な筋肉を強化するヨガは、スピードと持久力アップに役立ちます。そのうえ、高強度のランナー用ワークアウトによる怪我のリスクも減らせます。 - テニス:テニス選手にとっては、ヨガで肩と股関節の可動域が広がることで、パワフルなストロークや素早いフットワークの支えとなります。また、よくあるオーバーユースによる怪我の防止にも役立ちます。 - サッカー:ヨガをすると脚の柔軟性が高まり、体幹も安定、バランスが鍛えられます。そのため、負担を抑えながらシャープなターンや素早いスプリントをこなせるようになります。 - バスケットボール:ヨガで足首が安定し、股関節の可動域も広がり、全身のコントロールが強化されます。より高くジャンプできるようになり、試合でも効率的に動けるようになります。 - サイクリング:ヨガをすると股関節の屈筋とハムストリングスが柔軟になって硬さが減り、長距離ライド中の快適さが向上します。また、乗車中の姿勢も良くなります。 - ゴルフ:ヨガは体の柔軟な回転や体幹の強さを改善するので、パワフルにスイングし、一貫性のあるショットを打てるようになります。 - 格闘技:敏捷性、柔軟性、精神集中を鍛えられることで動きが正確になり、激しい対戦をしても素早くリカバリーできるようになります。
日々のトレーニングにヨガを組み込むと、上記のような競技ごとの効果に加えて、全体的なパフォーマンスの向上が期待できます。




アスリートはヨガをすることで筋力が強化され、こわばりを解消、リカバリーも早くなります。動きとレジリエンスを改善する次のポーズをトレーニング後の習慣にしましょう。各ポーズのメリットも合わせて説明します。
- ダウンドッグ:ハムストリングス、ふくらはぎ、背中を効果的にストレッチできます。 - ハトのポーズ:股関節を開き、臀筋の緊張をほぐします。 - コブラのポーズ:背中を強化し、背骨の柔軟性を高めます。 - ワニのポーズ:腰や股関節のこわばりを軽減します。 - 猫のポーズ:背中をほぐし、可動性を高めます。 - ブリッジ:臀筋とハムストリングを鍛え、体幹の強化と安定性の向上を図ります。
これらの定番のポーズを組み合わせて行うことで、バランスの取れた強い身体が作られ、怪我をしにくくなります。
テニスのワークアウト、長距離ラン、ハードなセッションの後のクールダウンにぜひ取り入れたいのが、次に挙げる一連のシンプルなヨガです。穏やかでマインドフルなシークエンスで緊張がほぐれ、モビリティが回復し、次のセッションへの準備が整います。
チャイルドポーズ:正座した状態から始め、両腕を前に伸ばしながら徐々に前傾していき、マットに額をつけてリラックス。ゆっくり深呼吸してください。
猫のポーズ:四つん這いの姿勢になり、背中をゆっくり丸めたり、反らせたりして温めます。
ダウンドッグのポーズ:両手を床に付けて、腰を高く持ち上げ、ハムストリングとふくらはぎを伸ばします。そのままの姿勢を保ちながら呼吸してください。
ローランジ:片足を大きく前に出し、腰を落として股関節屈筋を伸ばします。2、3回息を吸った後、左右を替えて同じポーズを繰り返します。
座って前屈:床に座り両足をまっすぐ伸ばし、上半身を前に倒して両手でつま先をつかみます。
仰向けハムストリングのストレッチ:仰向けに横たわり片方の足を持ち上げ、太ももの後ろをつかんで引き寄せますそのまま30秒キープしてから、左右を替えて同じポーズを繰り返します。
ブリッジのポーズ:仰向けに寝て、両膝を立てます。足裏をしっかり床に付けて腰を持ち上げ、臀筋を意識しながら胸を反らせます。
ワニのポーズ:仰向けになり、両腕を大きく広げます。両膝をそろえて片側に傾けます。左右を変えて同じポーズを繰り返します。
ハッピーベイビーのポーズ:仰向けに寝て、両手でそれぞれの側の足をつかみ、左右にぶらぶらと揺らします。
シャバーサナ:最後のポーズです。仰向けになり、両腕を脇に置きます。しばらく自然に呼吸し、体をゆっくりクールダウンさせましょう。
ポーズはそれぞれ1分ほどキープしてください。そして体の声に耳を傾けます。目的はリカバリーであり、頑張ることではありません。


激しいテニスの試合を終えてリラックスするときも、マラソン後のリカバリーとしても、ヨガには大きなメリットがあります。リカバリーしながら、レジリエンスもフォーカスも同時に向上するからです。
ヨガのウェアを揃えるときには、着回しのきく汎用性の高いものを選びましょう。米国人スプリンターのベイズデンはMovement BraとMovement 3/4 Tightsを愛用しています。「腕を出せて、胴部の動きを邪魔しないスタイルが好き」と言う彼女。「首から両腕にかけてのラインを自由に動かせることを重視しています。背中を反らすときも動きを妨げないデザインがいいですね」とはいえ、タイツはきちんと着圧感が欲しいとも語ります。「自分の身体の動きをよりしっかりと意識できますから」
ヨガをトレーニングに加えることで身体の動きも変わり、試合中、そしてリカバリーの場面でもその効果を実感できるはずです。
ヨガをトレーニングメニューに取り入れるといっても、マットの上で何時間も過ごす必要はありません。20~40分のヨガを1週間に数回するだけで、体の動きも気分も大きく変化します。
ヴェナブルズさんは、ヨガ講師になるためのトレーニングを始めて4週目に、こう気がついたと言います。ヨガの本質は体を動かすことではないのだ、と。「ヨガとは、自分にも他人にも優しくすることなのです。己をいたわり、スローダウンするためにヨガはあります。おざなりや受け身ではなく、心をこめた思いやりのあるケアの方法なのです」とヴェナブルズさん。「とはいえ、その瞬間は気が進まなくても、後で振り返るとやってて良かったと思えるようなことをする。つまり規律を課すのが優しさという場合もあります。そういうのもすべてひっくるめたのがヨガなのです」
”進歩”の定義は人それぞれ違います。より強くなりたい人も、さらなる確実さを求める人も、あるいはもっと楽々とこなせるようになりたい人も、ヨガがあなたが目指す目標へと導いてくれるでしょう。さあ、マインドフルに呼吸しながらゆっくり始めましょう。