
高地でのランニング:空気の薄い環境に順応するための正しい呼吸法とトレーニング方法
多くのランナーがトレーニングキャンプやオフシーズンに高地へ向かう理由は、標高にあります。一歩踏み出すごとに肺や脚に負荷がかかる環境では、走りのリズムも変わります。そして順応するにつれ、身体は少ない酸素量でより効率的に動けるようになります。ここでは、正しい高地トレーニングの方法を紹介します。
Onアンバサダーのカロリーナ・キャンデリーゼが高地で走るとき、走りの条件は一変します。空気が薄く乾燥しているため、呼吸はより深く速くなり、いつも以上に注意して自分の身体の声に耳を傾けなくてはなりません。「山ではペースを追い求めるのではなく、体が感じるきつさに応じて適切なリズムを見つけることが重要だと学びました」とキャンデリーゼ。
空気中の酸素が少ないと筋肉に届く酸素量も減るため、身体を動かす負担も大きくなります。しかし身体は順応します。赤血球が増加し、呼吸の効率も向上するため、初日はきつかったペースも、やがてこなせるようになっていきます。
その後、海辺で走ると、その効果がパフォーマンスに現れるとキャンデリーゼは語ります。「最初は空気が湿っていて、風も温かく重たく感じます。でも同時に、体が軽くて力を出しやすいと思えるんです。酸素をたっぷり取り込めるから、いつもより楽に速いペースを維持できます」。このようなパフォーマンスの向上こそが、多くのランナーが高地を目指す理由です。
高地トレーニング中に身体の中で何が起きているのか、どのように準備し、何を持っていくべきかを詳しく見ていきましょう。
高地では身体に何が起きるのか
標高が走りに影響する理由、それは酸素量の違いです。標高1,500mを超えると、酸素レベルは大幅に低下します。海抜の酸素量が21%であるのに対して、標高約2,500mだと約15%になります。文字にするとわずかな差のようですが、肺にとっては大きな違いです。
酸素量の低下が感知されると、腎臓からエリスロポエチンというホルモンが分泌されます。このホルモンは骨髄に指令を送り、より多くの赤血球を作るよう促します。赤血球が増えると、活動中の筋肉により多くの酸素を運べるようになるため心拍数が上がり、呼吸が速くなり、身体がフル稼働し始めます。身体的にはきついですが、だからこそ高地トレーニングは効くのです。 キャンデリーゼはこう語ります。「高地でペースを追い求めることは無意味だと気付きました。空気が薄くて酸素が足りない分、体感的なきつさはどうしても増してしまいます。たとえゆっくり走っていても、呼吸は自然と深く速くなっていくんです。だから私は数字ではなく感覚を重視しています」 時間が経つにつれ、こうした変化が大きな進化へとつながります。ランニングエコノミーが向上し、身体は少ない労力でより高いパフォーマンスを発揮できるようになります。低地に戻った後も、その順応効果は維持されます。効果は最大2週間続くため、多くのランナーは重要なレースの前に高地トレーニング期間を設けます。
さらに長く続く効果もあります。「私にとって山とは、本当の自分を見つけるための、最も純粋な場所の一つなのです」とキャンデリーゼ。「高地では、慣れ親しんだ快適な場所から一歩踏み出すことになります。薄い空気、肉体的な疲労、予測できない天気。そんな中で上級トレイルで長時間過ごすことで、心身ともに絶えず試されるんですよね」
高地ランニングのメリットと課題
高地でのランニングで走りは劇的に強化されますが、最初の1、2週間は自分の限界を思い知らされることになるでしょう。2024年の研究分析では、ほとんどの高地ランナーがすでに体感している事実が改めて証明されました。標高1,500m以上の場所に身を置けば、身体は確実に変わり始めるのです。
高地トレーニングでは、次のような現実が待っています。
メリット | 課題 |
赤血球数の増加 | トレーニング強度の低下 |
有酸素能力の向上 | 高山病のリスク |
ランニングエコノミーの向上 | 回復の遅れ |
平地でのパフォーマンス向上 | 脱水症状リスクの増大 |
レースに特化した準備 | 調整期間 |
高地に行く前の準備
準備内容はランナーの目的によって変わります。山岳レースを控えているのか、トレーニングキャンプを計画しているのか。あるいは、高地で1週間過ごすと脚の感覚がどう変化するかを試したいだけなのか。理由は何であれ、平地での準備は大いに役立ちます。
1. インターバルヒルトレーニング
インターバルヒルトレーニングとは、坂道を全力で駆け上がり、ジョギングや歩きながら下るリカバリーとを繰り返す手法です。これにより脚力を鍛え、心肺機能を高め、呼吸をより深くかつコントロールできるようになります。これらはすべて、空気の薄い環境で効果を発揮します。
ヒルインターバルは週1、2回を目安に加えましょう。まずは、きついと感じる強度の30~60秒の走りを4~6本繰り返すことから始め、そこから徐々に増やしていきます。 高地トレーニングの初心者は、軽めのランの最後にヒルスプリントを数本取り入れましょう。すでに身体が温まり筋肉がほぐれており、疲労を感じている状態では、同じ運動強度でも負荷が大きく感じられます。これは高地での感覚に近いものです。
2. 呼吸法を練習する
高地では、呼吸の仕方は体力と同じくらい重要です。体に負荷がかかると、どうしても浅い胸式呼吸になってしまいます。高地では、その影響がすぐに筋肉に伝わります。
次の2つの呼吸法を実践してみましょう。
- 横隔膜呼吸:鼻から息を吸って腹部をふくらませ、口から完全に息を吐き切ります。 - 口すぼめ呼吸:鼻から息を吸い、ストローを吹くようにゆっくりと息を吐きます。どちらも安静時に練習しましょう。
そして、これらを軽めのランで試します。数週間続けると、このリズムで自然に行えるようになります。そして、高地でも肺がすぐに順応できるはずです。
3. トレーニング講座への参加を検討する
一部のジムや専門施設には、高地環境を再現するために酸素濃度を低くした低酸素ルームがあります。まずは1、2回のセッションを試してみるとよいでしょう。呼吸が苦しくなり、心拍数が上がり、限られた酸素の中で体を動かす感覚を体感できます。
さらに一歩進めるなら、高地トレーニングキャンプへの参加を検討しましょう。通常は1~2週間の日程で、コーチングセッションとガイド付きランが含まれています。高地でのレースを目標にしている人や、普段と違う環境で集中して走り込みたい人には価値のある選択肢です。
空気が薄い環境で走るための6つのアドバイス
準備は整いました。次は自分の身体に逆らうのではなく、体を順応させていくことが重要です。
1. 高地トレーニングブロックを組み立てる
高地トレーニングブロックとは、標高の高い環境で集中的なトレーニングを行う期間のことを指します。最初の1週間は、ほとんどを調整に費やします。理想的なトレーニング期間は3~6週間です。赤血球数が増加し、酸素効率が向上して身体が順応するにはこのくらいの期間がかかります。効果はその後に現れます。
1か月も高地にいられない場合は、高地テントや低酸素ルームを利用して高地環境を再現することで、自宅で同じような順応効果が得られます。 ランニングマスクも人気のある代替手段です。実際に高地環境を再現することはできませんが、呼吸筋を鍛えることはできます。高地では呼吸するたびに負荷がかかるため、このようなトレーニングも有効です。ただし、実際の高地トレーニングの代わりにはなりません。
2. 順応するための時間を確保する
高地に入って最初の数日間は、まだ自分を追い込むべきではありません。低地では楽に感じられるペースでも、心拍数が通常より高くなります。そして呼吸が重くなり、体力も早く消耗。これは普通のことです。
最初の数回のランは、短時間かつ楽な強度に留めます。自分が感じるきつさを基準にペースを決めましょう。心拍数にも注意を払います。普段よりも大幅に高ければ、強度を緩めましょう。そして、呼吸器系が安定するのを待ちます。ほとんどのランナーは、5日目くらいに本来の調子を取り戻し始めますが、もっと時間がかかる人もいます。この調整期間もプロセスの一環だと考えましょう。
3. 状況に応じてペースを調整する
低地での普段のタイムはいったん忘れましょう。高地では、酸素を運ぶために心肺機能により高い負担がかかります。そのような状態でペースを追い求めると、すぐに消耗してしまいます。
感覚を意識しながら走り、ペースは一切気にしないこと。自分が感じるきつさを10段階で評価し、それを基準にペースをコントロールします。7くらいのきつさを感じるのなら、ウォッチの表示がどうであれ、体の感覚を信じましょう。
4. 高地用の装備を整える
山岳地帯では普段以上の装備が必要になります。特にウルトラトレイルレースに向けて準備しているならなおさらです。高地では天気が急激に変化しますし、日が差した次の瞬間、風や寒さに襲われることもあります。
そのため通気性が高く、すばやく脱ぎ着できるレイヤリングが不可欠です。キャンデリーゼは、必ず防風ジャケットを持参すると言います。「風や雨から守ってくれますし、気温が下がったときにも体温をキープできます」
この他にも、バンダナやネックゲイターといったアイテムも便利です。「保温にとても役立つほか、強風で呼吸が苦しいようなときに顔や首を保護してくれます」
紫外線対策も忘れないようにしましょう。標高が高いほど、日差しは強くなります。「キャップも定番アイテムの一つです」とキャンデリーゼは続けます。「日差しや風雨から身を守ってくれますし、汎用性が非常に高く、すごく寒くなったときも、反対に暑くなったときにも役に立ちます」
長距離を走るときには、ハイドレーションベストがあると、走りを止めずに水分を補給できます。
シューズも重要です。高地の上級トレイルでは、ロード用のものでは不十分です。確かなグリップ力と安定性、足裏を守る保護機能が欠かせません。Cloudultra 3のようなトレイルランニングシューズは、まさにこのような目的のために設計されています。安定性に優れたCloudTec®のクッショニングとHelion™ HFハイパーフォームが反発力を生み出し、変化の激しい路面でも快適さが続きます。
5. 栄養補給とリカバリーを優先する
高地では、坂を上る負荷、低い気温、取り込める酸素量の少なさといった条件が重なり、体力の消耗が激しくなります。そのため、キャンデリーゼは「疲れや空腹を感じる前」に、継続的かつ積極的にエネルギーを補給するよう心がけています。山地では疲労が急激に進むことがあるためです。
ここで最大の味方となるのが炭水化物です。酸素が限られた環境では、最も効率的なエネルギー源になります。キャンデリーゼにとって、水に溶かした炭水化物は重要な栄養補給戦略の一つとなりました。「これなら水分補給をしながらエネルギーの素も継続的に摂れるため、脱水と体力の消耗が予想以上に早く進みがちな高地では特に重宝します」
鉄分も重要です。身体がより多くの赤血球を作るため、鉄分の供給を維持する必要があります。赤身の肉、魚、豆類、葉物野菜は、鉄分の優れた供給源です。滞在中はもちろん、高地に行く前から積極的に摂取しましょう。
食欲が落ちる場合もありますが、それでも何か口に入れるようにしましょう。エナジージェルやエナジーバー、ドライフルーツは携帯しやすく、移動中でも簡単に摂取できます。キャンデリーゼは1時間ごとに何か食べるようにしています。「なるべく固形食を摂るようにしています。その方が満足感が高く、長時間の運動でも安定したエネルギー源となってくれますので」。ただし、より強度が高い区間や固形食を食べるのが難しい場面では、ジェルやエナジーバーも活用していると言います。
キャンプに戻ったら、炭水化物とタンパク質の両方を含む、きちんとした食事を優先しましょう。どちらも運動後の体に必要な栄養素です。高地でのランニング後の食事は、ランの最中に食べるものと同じくらい重要です。
水分補給も絶対に欠かせません。標高4,300mでは、呼吸するだけで1日約2リットルの水分が失われることがあります。のどが渇く前に水分を摂りましょう。尿の色もチェックします。薄い色なら大丈夫ですが、濃い色ならもっと水分が必要です。
高地では睡眠を取るのも難しくなります。身体は酸素を求めて目覚めてしまうため、早めに横になるようにしましょう。
6. 山での安全管理を徹底する
高地に行く前に、高山病の症状を把握しておきましょう。通常は頭痛から始まります。そして吐き気、目まい、疲労感、睡眠障害などの症状が出ることがあります。そのような場合は、それ以上高いところへ進むのはやめましょう。休息を取り、水分と栄養を補給して様子を見ます。
「定期的な栄養と水分の補給は、パフォーマンス向上のためだけではないと学びました。山ではこれは安全対策であり、セルフケアの一環でもあるのです」とキャンデリーゼは語ります。
状態が悪化し、意識の混濁、ふらつき、呼吸困難などの症状が現れたら、ただちに下山します。無理は禁物です。
走る前には必ず天気をチェックし、山では天候が急激に変わることを忘れないようにしましょう。ルートは、走る前に把握しておきます。
高地環境に慣れていない場合は「高い場所に登っても、寝るときには低い場所を選ぶ」という原則に従いましょう。日中は標高の高い場所で過ごし、その後、標高の低い地点に下りて寝るようにします。こうすることで、夜間に空気の薄い環境でリカバリーするという、余計な負担を身体にかけることなく、高度順応に必要な刺激だけを与えることができます。
頂上のその先へ
薄い空気の環境がきついことは事実ですが、それに順応することで強くなれます。「高地では、慣れ親しんだ快適な場所から一歩踏み出すことになります。薄い空気、肉体的な疲労、予測できない天気。そんな中で上級トレイルで長時間過ごすことで、心身ともに絶えず試されるんですよね」とキャンデリーゼは振り返ります。
一時的な苦しさを乗り越えれば、その順応効果を手に入れることができます。入念に準備を整え、自分の身体の声に耳を傾けながら、時間をかけて高地でのリズムを見つけていきましょう。
よくある質問
高地でのランニングは効果がありますか?
はい。高地でのトレーニングは、明確な生理学的変化を引き起こします。赤血球数の増加、酸素効率の向上、持久力の向上といった効果は、低地に戻ってからも続きます。時間をかけて身体が順応するのを待ちましょう。そうすることで、この環境に身を置くメリットを得られるはずです。
走るのが苦しくなる標高は?
多くのランナーは、標高1,500mを超えると違いに気付きます。この高さになると酸素摂取量が著しく低下し、呼吸、心拍数、走るペースに影響が出始めます。標高が高くなるほど、影響はより顕著になります。
高地でのランニングに順応するには、どのくらいの時間がかかりますか?
ほとんどのランナーは、5日目くらいに再び調子を取り戻し始めます。赤血球数の増加や酸素効率の向上など、完全な生理学的順応には3~6週間かかります。標高が高いほど、慣れるまでに必要な時間も長くなります。






















