

マラソンのトレーニングではやる気が出るプランを立てるのが第一。大切なのは自分のペースを守ることです。OAC(On Athletic Club)の耐久レースランナーたちの知恵を活かしながら、自分の可能性を大きく引き出しましょう。
文:Laura Markwardt 写真:Colin Wong
ランニングのヒーローに憧れて。人生の節目を記念して。あるいは友人と新しい思い出を作るために――マラソンを走る自分なりの理由を常に心に留めておけば、あらゆる場面で励みになります。42.195kmという特別な距離に挑戦し、走り切ることができれば、人生にポジティブな変化が訪れるかもしれません。そして正しいマインドセットで臨めば、何週間、何か月間もの準備期間すら新しい自分の一部となっていくはずです。手っ取り早い方法はありません。けれど、このガイドに従えば、マラソンを走り切る準備が確実に整います。
一般的な初心者であれば、およそ4か月のトレーニングでマラソンに挑戦する精神的・肉体的準備ができます。健康状態が良好で準備も万端に整え、合計数百キロ・数百時間のトレーニング記録をフィットネストラッカーに記録できるほど頑張れば、42.195kmの全距離を4時間程度で走れるようになるでしょう(あらゆる年齢と性別を含めたマラソンの世界平均タイムは3時間48分20秒です)。
ここにご紹介するモジュール式のトレーニングプランは、どんなレベルの初心者でもレースのための身体作りに役立てることができます。自分に必要な期間、持てる期間に合わせてトレーニングを開始してください。
今までマラソンの距離を走ったことがなく初挑戦する人なら、本番の16週間前にプランを開始するのが理想的です。16週間を切ってしまっていても、このガイドには初心者ランナーに役立つヒントが満載です。ただし、トレーニングを省略したり短くしたりするのはお勧めできません。
ご注意:マラソンをこなす自信がまだないという方は、ハーフマラソンのトレーニングガイドをご覧ください。ハーフマラソンの準備のしかたを詳しく説明しています。このトレーニングをすべてやり終えてから、フルマラソンのトレーニングに移行するという方法もあります。
ランニングの女王として名を馳せるOnアスリート、ヘレン・オビリは2023年にマラソン二冠を達成しました。まずボストン女子で優勝し、その数か月後には2時間27分23秒のタイムでニューヨーク大会を制覇。同一年にボストンとニューヨークの両メジャーをものにした女子選手は1989年以来初という快挙でした。
このような偉業は人々にインスピレーションを与え、もっと距離を伸ばそう、とにかく外に出て走ってみようと、多くのランナーたちのやる気を誘っています。しかし同時に忘れてはならないのは、プロのアスリートは次のレースに向けて日々たゆまず努力しているということ。マラソン選手の多くは仕事や人間関係、家族や子育て、その他さまざまな責任を担いつつ、ランニングの目標に向けて邁進しています。
例えば、Onアスリートのサムエル・フィトウィは、マラソンのトレーニングを始めた時、建設現場の仕事と掛け持ちしていました。「働きながらランニングのトレーニングをするのは大変でした」と彼は言います。「初めて30km以上走った時はものすごくきつかったですね。体の回復にも時間がかかったし、メンタルも不調でした」。プロになりフルタイムでトレーニングできるようになってから、2023年に初めてマラソンに出場した彼は、2時間12分14秒の見事なタイムでゴールを切ることができました。
こうした実例が示すとおり、人は生活のいろいろなタスクに時間とエネルギーを取られてしまうものであり、それはランニングの成果にもあらゆるレベルで影響します。自分のライフスタイルに無理のない範囲で走ることを忘れないでください。良いタイムを出すことよりも、まずは完走を目指しましょう。賢くトレーニングを続けていけば、挑戦するレースは後からどんどん見つかります。
ここでは本番4か月前から始めるマラソン準備方法を説明します。完璧なコンディションで大会当日を迎えられるよう、週ごとにどれくらいの距離を走ればいいかを表に示しました。
巷のガイドの中には、ランニングのスケジュールにインターバルトレーニングやヒルスプリント、ファートレック、トラックランを組み合わせるよう勧めるものもあります。しかしここでは初心者向けのガイドとして、出来る限りシンプルで的を絞った方法を紹介し、完走するのに必要なトレーニングに重点をおいています。
ポイントは、自分の体の有酸素ゾーンでトレーニングすること。つまり比較的低い心拍数で、ゆっくりしたペースを保ちながら走ります。有酸素トレーニングの効果を科学的に解説したOFFのストーリー、「なぜゆっくり走ると、速く走れるようになるのか」もぜひ参考にしてください。
-休養:寛ぎながら体の声に耳を傾けましょう。休養日でも、負荷の少ないクロストレーニングならやってもいいでしょう。けれどそれ以上に大切なのは、筋肉や関節にリカバリーのチャンスをしっかり与えることです。ヘレン・オビリを始め、多くのアスリートたちを指導しているOACのアシスタントコーチ、ケルシー・クィンも「リカバリーはきわめて重要です。基本のように聞こえるでしょうが、きちんと休むのは決して簡単なことではありません。優れたアスリートは皆、リカバリーを真剣にとらえていますよ」と話しています。 休養もまたトレーニングの一部であることを忘れずに。
-違う運動をミックス:週末の一日は別のスポーツを楽しむのがおすすめ。ランニングのトレーニングを補完できるからです。ジムでのワークアウトでも、水泳、サイクリング、友人とのリクリエーション的な運動でも、なんでもOK。ポイントは心拍数を上げること。そして原則として30分以上続けてください。
-土曜日、それとも日曜日?:週末の予定は都合に合わせて変えても構いません。時間がなくて週末に1回しかトレーニングできない場合は、別の運動をミックスするよりも長距離ランを優先してください。
今始めれば、タイミングはバッチリです。この最初のひと月はリズムをつかみ、規則的に練習する習慣づけの期間と考えましょう。
調子が上向き始める時期です。かなりのランニングをこなすようになるこのひと月。体が次第に慣れ、スタミナも向上していることに気付くでしょう。
トレーニングプラン全体で最も走り込むのがこのひと月です。粘り強く取り組みましょう。この期間の最後に挑戦する40kmのランニングは本番前の試走と考えてください。また、長距離をこなす日はレース用の補給食を試し、レースに向けて体を慣らしておくのも重要です。この4週間をこなしたら、あとは残りひと月です。
トレーニング中の最長走は、トレーニング期間が少なくともあと4週間残っているタイミングでするのがベストです。これによりレースへの自信がつき、実際のランニングペースもつかめるようになります。本番までに徐々にトレーニングを減らしていく時間もまだ残っています。
いよいよトレーニングも終盤です。3週間を切ったらハードなトレーニングはもう終わり。数回の長距離をこなしたら、トレーニング量を徐々に減らし、短距離のランニングに切り替えていきます。この段階では、マラソン本番に向けて体力のピークを維持していくことを心掛けてください。
トレーニングをまったくしないで、あるいは十分にトレーニングせずにマラソンを走ることはまったくお勧めできません。ケガに見舞われるか、あるいは二度と走りたくないと思う結果になりがちです。それでも、どうしても参加したいという方は以下の点に注意してください。
-医師に相談:まず健康診断-を受けて、ランニング中に心臓疾患にかかる-リスクがないかを確認しましょう。トレーニング不十分で臨むマラソンのリスクを甘く見てはいけません。
-とにかくゆっくり走る:マラソンは長距離レースです。トレーニングが不足していれば、途中でぶち当たる壁を乗り越えられなくても不思議ではありません。心拍数が上がらないように緩いペースを保ち、歩きたくなったら迷わず歩きましょう。また、マラソンのスタートラインの高揚感は要注意です。ハイ-タッチの嵐と-エネルギッシュな雰囲気についつい飲まれ、ベテランのアスリートですら猛スピードで走り出し、待ち受ける距離をこなせなくなってしまうことがあります。
-オーディオの活用:ペースを上げ過ぎないようにする一つの方法は、最大でもテンポ80-~100(BPM)というゆっくりめの音楽を聞きながら走ることです。お気に入りの音楽であればさらに効果的。身体にかかる負荷やタイムに気を取られるのを防ぎます。音楽だけでなくランナーにおすすめのポッドキャストも役立ちます。ただし、すべてのレースでヘッドフォンの着用が認められているわけではないので事前に確認してください(多くの大会では骨伝導タイプのものは許可されています)。
-ペーサー(ペースメーカー)と走る:公式のペーサーがいない場合は、体力レベルが同じくらいのランナーを見つけて、その人の後ろに付いて走るのも手です。ただし見た目だけでは判断しにくいもの。ペースが早いなと思ったら無理に付いていこうとせず、スピードを下げて別のペーサーを探しましょう。
-ガマンしないで水分補給:マラソンを走るときの栄養補給も気になるところ。いろいろ調べた人なら、一定のタイミングで一定量の水分を摂るというアドバイスを目にしているでしょう。しかしそれはトレーニング不足の人には当てはまりません。身体が欲したらいつでも、飲んだり食べたりして栄養補給することが大切です。これを必ず守ってください。
-筋肉痛-や擦り傷対策:温感ジェルや軟膏をもっていくといいでしょう。マラソンが-終わった後に効果を実感するはずです。
トレーニング中もレース本番も、快適で高性能のマラソンギアの重要性はいくら強調しても足りません。ただし、レース当日に真新しいウェアを初めて身につけるのは禁物。肌に擦れたり、まくれあがったり、全体的に走りの邪魔になったりと、思わぬ問題が出てくる可能性があります。そうでない限り、高性能ウェアを着て思い出に残る写真を残すのも楽しみの一つ。たとえ後半戦で苦しくなっても、プロっぽい雰囲気をキープできるかも!?
マラソン初挑戦に向けて自分の限界を試すなら、サポート力が特に高いランニングシューズがおすすめです。普段の短距離ランには必要でなくても、レースに適した特別なサポートシューズなら、トレーニング中に蓄積した疲労や本番の筋力低下を克服するのに役立ちます。
現代の定評あるマラソン大会には、フェスティバルのような雰囲気があります。組織的に運営されており、コース沿いには数キロごとにエイドステーションや給水所が設置されています。しかし人によって必要な持ち物は違います。各エイドステーションで利用できるものは何か、事前に下調べしておきましょう。通常は、水、スポーツドリンク、果物、塩アメ、チョコレート、マッサージなどが利用できますが、
場合によっては水しか置いていないこともあります。そのようなレースでは、必需品として以下のものをポーチやポケットに入れて走るといいでしょう。
エナジージェル 最低でも2本(マグネシウムかポタシウムを含んでいるものが理想的)
- プロテインバー 2個
- 救急絆創膏 4枚-
- リップクリーム(擦り傷にも使えるもの) 1本
お疲れ様でした!頑張ってトレーニングしたレースもついに終わり、後はゆっくりリカバリーするだけ。まずは自分の努力と成果をほめてあげましょう。ふと気付いたら次のレースにもう登録していたなんてこともあるかもしれません。
回復のしかたについては「レース後のリカバリー方法」をぜひご覧ください。このガイドの他にも、「初マラソンで経験できること」が当日までの準備のしかたを詳しく解説しています——もちろん、何物にも代えがたい達成感を得るための心の準備についても。