

新進気鋭のOnテニス選手が実践するエリートレベルの食事とリカバリー戦略。シーズンを勝ち越すための効果的な栄養管理術を紹介します。
テニスの試合を余裕で戦い抜くか、それとも疲労困憊して苦戦するか――決め手となるのは正しい食事法です。「試合の前は炭水化物中心の食事をとるようにしています」と話すのは、ITFジュニアとして注目を集めるOnの期待の星、イェリ・ホン。「夕食には野菜、ミルク、タンパク質、それと少量の炭水化物を食べますね」
車には燃料が要るように、全速力で走り、サーブを打ち込み、ラリーを続けるには身体に適切な栄養を補給をしなくてはなりません。だからといってホンの食事をそのまま真似すれば良いわけではなく、各人の体格や代謝レベル、トレーニングの強度などをすべて考慮に入れる必要があります。自分にぴったり合った栄養を摂り、ゲームをレベルアップするためのアドバイスをまとめました。
テニスは多大なエネルギーを要するスポーツです。スプリント、スイング、ロングラリーと、どの動きをとっても継続的なエネルギー補給がなければ成り立ちません。次の3大栄養素からなる、しっかりした栄養計画を立てましょう。
- 炭水化物:すみやかに消化・吸収され、長時間の試合をこなすエネルギー源となる。(パスタ、米、イモ類など)
- タンパク質:疲労した筋肉の修復、回復を促す(鶏肉、魚、卵など)。
- ヘルシーな脂質:エネルギーを長時間持続させ、ビタミン類の吸収を促進(アボカド、ナッツ、オリーブオイルなど)。
ホンは一日の食事を3:5:2のバランスでとっています。つまり朝ごはんをしっかり食べ、メインの食事を昼にとり、夕食は軽めに済ませるというパターン。朝食は野菜、韓国式味噌汁、お米と少量の肉。昼食は「好き嫌いせずにできるだけたくさん食べるようにしています」と語ります。
それでも、栄養をどのように摂るかは人それぞれ。試合で実力を出し切るには、食後の体調を確認しながら必要に応じて調整していきましょう。特定の食べ物を食べた後にだるさを感じたり、プレー中にけいれんや疲労感に襲われたりしないか。また、テニスのワークアウトを終えた後にスムーズにリカバリーできるかどうかなどをチェックします。
どのような栄養素を重視すべきかは運動の種類によって異なります。特に有酸素運動を中心とした長時間のトレーニングに取り組む時は炭水化物が強い味方。未精白の全粒穀物や果物、野菜は、持続的なパフォーマンスを支えてくれます。ウエイトトレーニングをするなら、筋肉の修復と回復を促すプロテインを多めに摂取するといいでしょう。
そして試合当日は、さらなる調整が必要です。ここ一番という時に最高のパフォーマンスを発揮するためには、次のような栄養管理を行いましょう。
試合前の食事は、消化の観点から3~4時間前には済ませます。ホンの定番はお米中心の食事ですが、タンパク質を完全に絶つ必要はありません。炭水化物とタンパク質は7:3くらいの割合で摂取すると、十分なエネルギーを確保できます。
おすすめの食品は次のとおり。
-全粒粉のパスタ、グリルした鶏肉、野菜
-サツマイモ、卵料理、アボカド
-フルーツとナッツ入りのオートミール
また、試合直前のエネルギー補給には、例えばギリシャヨーグルト、ピーナッツバター、フルーツなどの軽食が適しています。現役時代、ロジャー・フェデラーが試合前にパスタを食べていたのは有名な話ですが、食べ過ぎには注意しましょう。
テニスマッチは数時間に及ぶこともあり、体力を消耗するとともに電解質も失われます。身体は筋肉に蓄えられたエネルギー源のグリコーゲンを消費し続けると同時に、脱水症状に陥らないためには水分補給も欠かせません。これらの補充を怠ると疲労やだるさに襲われる可能性があります。
栄養補給にぴったりなのは次のような食品です。
-エナジージェルやエナジーグミ:すばやく消化吸収される炭水化物
-スポーツドリンク:電解質と水分の補給に(ただし糖分のとり過ぎになることもあるため、その点は注意)
-バナナやデーツ:消化しやすい自然食品--
中でもホンを始め多くのプロ選手に愛されているのがバナナ。全豪オープンのケータリングを担当していた会社によれば、毎日6箱分のバナナを選手のために用意していたそうです。
試合が終わったらすぐにリカバリーの始まりです。特に重要なのがプレー終了直後の30分。体が栄養を吸収しやすく、筋肉の修復を開始する準備が整っています。まずは、すばやいエネルギー補給にとりかかりましょう。
-チョコレートミルク:タンパク質と炭水化物を手っ取り早く摂取できるためプロも愛飲
-プロテインシェイク:消化しやすく筋肉の修復にうってつけ
-スムージー:さまざまな栄養と水分の補給に
そして2時間以内に、例えば次のようなバランスの取れた食事をとりましょう。
-グリルした鶏肉、ライス、野菜
-ミートソースのパスタ(ジョン・マッケンローの好物はスパゲッティでした)
-サーモンとサツマイモ、青野菜
-ビーンズとアボカドのキヌア丼
しっかりと燃料補給をすればリカバリーもスムーズに。次の試合に向けてますますパワーアップできるはずです。
乾燥した熱気の中で開かれる全豪オープンも、べたつくような高湿度で知られる全米オープンも、最高のパフォーマンスを発揮する鍵は水分補給。身体の水分量が低下し脱水症状に陥ればプレーに支障が出るうえ、下手すれば熱中症になる恐れもあります。
平均的な選手なら1日の水分摂取量の目安は2~3リットル(コップ8~12杯分)。喉の渇きを感じているとしたら、それはすでに水が足りていないというサインです。
また、発汗により体内の電解質も失われるため、これも補充が必要。つまり水を飲むだけでは不十分で、プロはスポーツドリンクを活用します。例えばホンは、電解質飲料のポカリスエットと水をバランス良くをとっています。シュガーフリーのドリンクが好みであれば、水に塩をひとつまみ入れて代用しましょう。
必須ではないものの便利なのが補助食品。もちろん最優先すべきは適切な食事と、ベストプレーにつながる食品を知ることです。
しかしトーナメントのために長距離移動する場合などは、栄養管理が難しいもの。「国によって食べ物や調味料に違いがあるし、遠征先で自分に合ったレストランを見つけるのは容易ではありません」とホンは言います。「トーナメントに出るとなると、栄養管理がけっこう大変なんですよね」。このような時は、次のようなスーパーフードやサプリメントを計画的に採り入れるといいでしょう。
-ビーツパウダー:体内で一酸化窒素を作り出してくれる。血流改善や、スタミナと持久力アップに効果的。
-クレアチン:水分補給と筋肉の回復を促進。長時間のトーナメントに最適。
-プロテインパウダー:新鮮な食品が手に入らない時に手軽に必要量のタンパク質を摂るのに便利。
-マルチビタミン:移動中に不足しがちな栄養素の補完に。
-ココナッツウォーター:天然の電解質を含む水分補給源。現地の水道水に不安がある時も役に立つ。
これらについては事前の計画が大切。自分が最も必要とする栄養素を把握して、エネルギー源となるものをプレー先に必ず持参しましょう。
プロのような栄養管理を目指すなら、補給の準備も入念に。本番のコートサイドで口にしたものが力となり、ウィニングショットに結実するかもしれません。