

障害物レースに打ち込むOnアスリートは今年、持てる力を最大限出し切ろうとしています。新たな強さを手に、そして勝利への闘志を再び固めて。
文:Robert Birnbaum 写真:Tom Schlegel
過去10年以上、ドイツ陸上界でゲザ・クラウゼほど成果を上げた選手はほとんどいない。3000m障害レースで3度のオリンピック決勝進出を果たし、世界選手権で2つの銅メダルを獲得。それは彼女が10代の頃から掲げてきた目標だった。
「私は中距離走、特に800mと2000mがずっと得意でした。16歳の時に全寮制のスポーツの学校に入ってから1500mも走るようになったんですが、ある時、1500mか1500m障害のどちらかを選ぶことになりました」
そして初めて挑んだ障害物レースで、その後に続く華々しいキャリアの一歩を踏み出すことになる。2位でゴールし、ドイツ選手権への出場資格を得て、さらにそこで優勝したのだ。自分の強みを見出した瞬間だった。
「障害走はもともと好きだったし、テクニックも最初から身についていました。ただ周回するのではなく、次々と障害物を克服していかなければなりません。どんなことでも起こり得るレースで、とにかくポジショニングがすべて。その要領をつかめていたんです。戦術も、リズムも」
そして2021年夏の東京の大舞台で5位入賞を果たした一年後、クラウゼは妊娠を発表。2023年4月に、娘ローラ・エミリアちゃんが生まれた。
クラウゼの生活は一変したが、ハングリー精神は健在である。長い間競技を離れていたにもかかわらず、ライプツィヒで開かれたドイツ室内選手権では勝利への意欲がまったく失われていないことを示した。1500mと3000mの2冠を達成した彼女は現在、OAC(On Athletics Club)の新メンバーとして、今シーズンの戦績アップを狙っている。
「レースを始めたのは2008年。2011年からは主な国際陸上競技大会のすべてに出場してきました」と語る彼女。「その頃は息つく暇もなく、そんな状態を無視して頑張り続けてきたので、2022年には肉体的に限界に達していましたね。でも妊娠したので、いったん深呼吸して自分を完全に立て直す時間を持てたのです」
とはいえ、長期休暇も取らず連続して多くの大会に出場し、トレーニングキャンプからトレーニングキャンプへと絶え間なく移動するクラウゼのようなアスリートにとっては、やっと手にした休息のチャンスもまた困難なものになり得る。
「妊娠は自分にとってまったく新しい状況だったし、足踏み状態を受け入れるのはかなり難しかったですね。子供を産んだ後で競技に復帰するのはどんな感じだろうとか、果たして今まで以上の成果を出すことができるのだろうかとか、思いあぐねていました」
ともあれ、クラウゼはマイペースを貫き、プロセスそのものを信じることにした。
「私はトレーニングのプロセスを信じるタイプです。もちろん、トレーニング中はいろいろなことがゆっくりしか進まないと気づいたし、100パーセント完璧じゃないかもしれないと感じました。でも間違いなく正しい道を進んでいると思います。再びレースに出て、緊張しつつ、さまざまなレース展開に対応していけるようになるために、インドアシーズンで勝負すると意識的に決めて練習したのです」
「復帰後の最初のレースで、パフォーマンスのレベルは良好だと自信がつきました。レースの時に恐怖を感じなかったし、自分自身は何も変わっていないと思えたんです。すべてがやや違っていたけど、それほど大々的な変化は感じませんでしたね」
「2024年は最高の年になるはず。私にとっては、最高のパフォーマンスを実現することが、メダルを取るという夢の大前提なんですよ」
つまり、夢は大きく、それへのステップは着実に、ということだ。クラウゼの戦略は「一歩一歩、前に進んでいくだけ」と、シンプルそのものだ。
彼女は2023年5月にトレーニングを再開した。「最初はほとんど一からやり直しでした。スタートはそんな感じだったけど、今はどこまで行けるかという挑戦に奮い立つ思いです。今年は可能な限り最高のパフォーマンスを実現したいですね」
クラウゼは、女子3000m障害決勝進出への意欲を、抑えた自信とともに語る。
「夢や希望を持っていないと言えば嘘になるけど、2024年の成功をメダルや順位やタイムで測るつもりはありません。今進んでいる道を、健康的に、そしてハッピーな方法でこのまま進んでいって、思い描くタイムや夢や目標にできるだけ近づいていくだけです」
クラウゼは今、かつてとは違う方針を打ち立てている。限界まで、いや、時には限界を超えてトレーニングするが、これまでとは違うマインドセットでそれに臨んでいるのだ。
「自分自身と身体の声に耳を傾けるようになりました。それは妊娠中も、とても重要なことでした。トレーニングは常にしていたけれど、気分が乗らない日もあり、そういう時は、もうダメだ、今日はおしまいにして明日またやろうと自分に言い聞かせていましたね。そして、一日経ってもすべてが無になっているわけではないと認識したんです。自分自身と自分の健康について、もう少し注意を向ける必要があるということですね」
トレーニングに対する考え方もさることながら、娘のローラを出産して以来、クラウゼの生活は多くの点で変化した。
「今、家の中はローラを中心に回っています」と彼女は笑う。「母親という第二のフルタイムの仕事に、喜んで時間を捧げていますよ。私はそもそも、根っから家族第一の人間なんです。家族と過ごしている時は幸せな一体感に包まれて、そこから新しい力とエネルギーをもらっているんですよね」
粘り強さ、そしてパッションこそが鍵である。
「競技ができなかった時は辛かった」と語るクラウゼ。「でもだからこそ、産休を取ったのはとても意味がありました。自分はまだ絶対にこれをやりたいって自覚できたからです。レースに出たいという内なる炎は、めらめらと燃え続けていたんです」
世界各地でトラックを疾走している時以外のゲザ・クラウゼは、できる限りたくさんの場所へ出かけている。どこかの都市をふらっと訪れてみたり、インドネシアのバリ島で視野を広げる経験をしたり。ただし一人旅ではない。大切な人たちとの時間を過ごすことこそが、彼女の大きな喜びだからだ。
「仲間と一緒に人生を楽しんで、特別な瞬間を味わうのが大好きです。いつでも可能というわけではないけれど、プロアスリートとしての生活から自分を切り離すことも大事にしています。私はかなり堅い人間に見えるようですが、親しい人たちがよく知っているように、全然そんなことはないんです。ただ、一度に一つのことにしか集中できない性質ではありますね」
2024年、クラウゼの内なる炎はかつてないほど激しく燃えている。そして目下の焦点は、今シーズン最大のレースに置かれている。