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スイス生まれの高機能ランニングシューズ&ウェア

地元コミュニティを​​大切に​​する​​Onストアの​​デザイン哲学

これからの​​時代、​​スポーツウェア ショップは​​製品を​​売るだけの​​場所では​​ありません。​​デザインと​​人に​​きめ細かく​​配慮した​​Onストアは、​​動く​​ことを​​通じて​​コミュニティと​​密接なつながりを​​築きます。

文:Robert Birnbaum   写真:Joe Clark

ここはスイス・チューリッヒにあるOnの本社、On Labs。その6階(日本式には7階)にあるフロアは、特別な趣をもつオフィススペースです。まず目につくのが、天井から大きく吊り下がったハンギング・ツリー。On発祥の地、スイスのエンガディン地方に産する松、ストーンパインを自然な状態で保存したオブジェが印象的なコーナーを作っています。社員の自発的・創造的なブレインストーミングを促すスペース 「ハックガレージ」や、Onのグラフィックデザインを展示した 「ホール・オブ・フェイム」 もここにあります。 

Onというブランドが持つビジョンと価値観と使命のすべてが、視覚的・物理的表現へと生まれ変わるこのフロア。先進的なデザイン部門の仕事場ですが、その中でも特に建築家と空間デザイナーのグループは、さまざまな素材のサンプルや設計図の山に埋もれながら、世界各地のこれからのOnストアのあり方について、日々知恵を絞っています。製品の販売だけを目的に陳列棚を並べたり、グラフィックや広告文でそれを飾ったりといった仕事をするのであれば、話は簡単でしょう。それこそが店舗の本来の機能なのだから。しかし、2026年までに小売業全体の売上の4分の1弱がネットショップ経由になると予測されている現在、実店舗には、単なる売買取引の場とは異なる役割が求められています。 

とはいえ、実店舗を完全なショールームやギャラリー風の空間にしてしまうのも解決策にはなりません。来店した人がOnの製品を試着、購入し、同時に、売り買いだけにとどまらないはるかに豊かな体験ができる——そういうバランスの取れた機会を提供することが、私たちに課せられた挑戦だとOnは考えています。直観的で、インスピレーションを掻き立てる、機能的にも優れた物理的空間を、お客様だけでなくコミュニティのためにも作っていくこと——Onのリテールデザイン責任者、ダイアナ・ダウリングが掲げる目標です。 

ダウリングによれば、Onの実店舗に命を吹き込み、身体を動かすムーブメントやコミュニティとつながるために必要なアプローチは、次に挙げるようないくつものステージを含んでいます。 

正しいロケーションの選択

「まず最初に、その都市の中のどのエリアにストアを設置するかを考えます。周辺にはどんな人たちが、どのように暮らしていて、Onのストアはそこにどうフィットするだろうかと。近隣の人たちが普段どこで買い物するかだけを重視するわけではありません。Onに関心を持ってくれる人たちの特定のコミュニティが、都市の中心部以外に住んでいることもありますから、その場合は、ショッピングエリアに第一の焦点を置くよりも、そういうコミュニティに近い場所を選びます」 

建物の魅力を活用すること

ロケーションが大体決まったら、次は建物を探します。その際、広さだけでなく、どんな特徴があるかも重要です。 

「特にヨーロッパの都市は、それぞれ豊かな歴史がありますよね。私たちが望むのは個性のある建築物であり、こちらの思い通りにすべてを変えてしまうことはできません」。 ここでダウリングの話は、2024年3月にベルリンのミッテ区にオープンするドイツ初のOnストアへと及びます。 

「ベルリンの新しい直営店は2つのフロアに分かれているのですが、そのために課題もありました。来店される方たちのニーズに両方のフロアで応えていく必要があります。特に安全性とアクセシビリティの面ですが、それに合わせてスペースの使い方を決めなければなりません。階下のフロアは幸い、大きな天窓がついており、外からの自然光が入るので明るい空間になっています。とても広々としていて、パリ直営店のように循環的な動線を念頭にデザインしました。この ”循環的” というのは、訪れた人がどこに足を運んでも行き止まりにはならないフロア設計のことです。試着室はこの階下のフロアにあり、そこで会計を済ますこともできます。お客様の時間を大切にするという配慮からこうしました。

直観的に見て回れること

「実際の店舗のデザインはフロアプランから始まります。その際、来店した人がどこに向かってどう移動するかというカスタマージャーニーを意識したレイアウトにすることが、きわめて重要です。さまざまな備品や、ストーリー性を高める要素、試着室から出口通路のクリアランスにいたるまで、あらゆるものがベストな場所に配置されるようにします。そうすれば、ベビーカーの親子や車椅子の方も含め、誰にとっても利用しやすい店にすることができます」

この段階の設計プロセスにおいては、空間のナビゲーションもまた、大事な焦点です。 

「お客様に、直観的に利用できる空間だと感じてもらいたいのです。Onの公式オンラインストアと同じような感覚で、実店舗も利用できるようにしたいと考えています。たとえばウェブサイトでは、「ランニング」、「トレーニング」、「トラベル」など、用途別にアイテムを選べるようになっていますが、ストアでも同じように、お客様にナビゲーションを提供できるようにしています」 

そこで重要になるのが、 ”来店客の目線” です。

「来店したお客様が売り場のレイアウトをどう読み解くかについて、私たちは検討に検討を重ねます。店に入った時、人はどの場所にいても、何を見たいかを目で探しながら選択します。そしてこの時点ですでに、自分自身の優先順位に従ったカスタマージャーニーに乗り出しているのです。ですから、店内に文字を掲示する場合は、お客様にどれくらいの距離から読んでもらえるかを考えます。たとえば、階下へ誘導するような表示を出すなら、それにふさわしい大きさの文字にしなければいけません。『トレイル用のコレクションは下の階と書いてあるから、次に行ってみよう』と、すぐに判断してもらえるように」

ローカルな個性を体験できること

カルチャーは、国ごと、街ごと、エリアごとにそれぞれ違います。そのため、コミュニティの一部として認められるストアになるには、その場所ならではの雰囲気がしっかりと感じられるデザインにしなければならないとダウリングは強調します。

「ベルリンには都会的なランナーがたくさんいます。週末は田舎の方に出かけるかもしれないけれど、平日は朝から晩まで都市で生活している人たちです。彼らが月曜から金曜まで街で働いているなら、近所の街路や公園を走って距離を伸ばそうとするでしょう。ベルリン直営店は、そんなイメージに触発されながらできあがりました。歴史あるこの建物の元々のレンガの壁を広くむき出しにしつつ、大きな木の要素も取り入れて、街と自然を並置したデザインにしたのです。つまり、 ”大都市の中の公園” の雰囲気を、文字通りの意味ではなくコンセプチュアルに実現したんですね。自然環境への思いやつながりを呼び起こすために、それそのものではなく、概念的にふくらみのあるデザインを試みました。

動くことをインスパイア 

店内には全フロアにわたって、Onの出発点やアスリートたちのストーリーを伝える数々のグラフィック、スクリーンなどが意識的に配置されています。製品を見てもらうことは重要ですが、その製品で(来店者自身を含む)人々が何を実現できるかを知ってもらうこともまた同じく重要です。だからこそ、ギア探しからインスピレーション探しまで、一貫性のあるデザインコンセプトを打ち立てることで、ショッピング体験を大いに豊かなものにできるのです。

「私たちはこのような要素を、お客様の来店体験の至る部分に散りばめています。特に、それぞれを隣接して配置することに細心の注意を払っています。つまり、お客様が店内を歩きながらある製品を目にしたとき、その周囲の空間で語られているストーリーのテーマに呼応して、製品が生き生きと見えるようにしているのです」 

その一方、刺激が溢れかえっている現代社会では、ストーリーテリングの要素が多くなり過ぎないよう慎重にバランスを取らなければならないと、ダウリング率いるチームは考えています。「スクリーンを設置して次々と映像を流し続けるのは簡単です。でも、Onのお客様は配慮の行き届いた体験を求めてストアに来られます。売り場のそこかしこで目障りなビデオが流れているような店は、お客様のニーズに合いませんよね」

身体を動かすコミュニティのために

Onの使命の中心にあるのは、一緒に身体を動かすこと。Onの直営店もまた、来店客同士のつながりを生み出すことを重要な目標にしています。そのため、一部の店舗では毎週ランニングクラブを実施しており、ベルリン店でもオープン後にスタートする予定です。ベルリンのランナーたちが、ベテランも初心者も皆一緒になって運動できる、フレンドリーで活気に満ちたランニングクラブです。また、各種のイベントや取り組みについての情報が得られるコミュニティボードも店内に設置されます。しかし、ベルリン店のどんなところがコミュニティに対して最も大きな影響を与えているかとダウリングに尋ねたところ、ストアで働くスタッフだという答えがすぐさま返ってきました。

彼らの影響力は、来店客それぞれに適したギアやサイズを見つけることだけにとどまりません。彼らはコミュニティとつながり、一人ひとりがどんなふうに身体を動かすのが好きかを理解するのです。そして、週一度のランクラブであれ、Barry’s BootcampやUrban Sports Clubなど、Onのパートナーが主催するワークアウトであれ、次に開催されるムーブメント セッションに人々を誘い、情報提供もしています。

「ストアのスタッフの影響力は決してあなどれません。彼らが持っているコミュニティとの強いつながり、彼らが語るストーリー、ランクラブへの呼びかけは、顧客体験全体の中でも特にパワフルな要素の一つです。私たちリテールデザイナーの仕事は、スタッフがベストな形で働けるよう、その舞台を整えることなのです」

こうした配慮がすべて一体となって機能しているベルリン店。Onのリテール空間に注がれるダウリングの情熱が手に取るように伝わってきます。インスピレーション、テクノロジー、そして人々を力づけるギアの数々が、直観にアピールする美しい空間に集結。ダウリングは自信をもってこう言いました。「きっとパワフルな場所になりますよ」

Onのデザイン哲学を実際にご覧になりたい方は、2024年3月15日に新規オープンしたOn Store Berlin Mitte(Neue-Schönhauser-Straße 19, 10178 Berlin)へ、ぜひお越しください。