トライアスリート、フェネラ・ラングリッジに聞くクロストレーニングの正しいやり方
Onアスリートでアイアンマン優勝経験を誇るフェネラ・ラングリッジが、持久力強化、怪我の予防、そして最高のパフォーマンスにつながるクロストレーニングについて、エリート選手ならではの体験をもとに語ってくれました。
文:Laura Markwardt 写真:Billy Harriss、Guillermo Fernandez
一流トライアスリート、フェネラ・ラングリッジの競技スタイルは、あるスポーツから別のスポーツへとスムーズかつ効率的に切り替えられる能力が決め手となっています。スイムからライド、そしてランへと次々に種目を変えながら競うトライアスロン。その中でも特に過酷と言われるアイアンマンで、彼女は優勝を勝ち取りました。
クロストレーニングとは、アスリートが自分の専門種目以外のスポーツでトレーニングを行うことをいいます。たとえば、持久力を鍛えるためにランナーが自転車を走らせたり、スイマーがボートを漕いだりするのがクロストレーニングです。クロストレーニングは、筋力のバランスを高め、持久系スポーツに必要なトレーニングの量を増やすだけでなく、選手が燃え尽き症候群に陥るのを防ぐ効果もあります。コーチと協力しながら体力を強化・維持し、怪我を防ぐ練習をしてきたラングリッジにとって、複数のスポーツをマスターすることはまさに理に適っているのです。
さまざまな耐久レースに出場しているラングリッジ。レースとレースの間は多大な量のトレーニングをこなしながら、ストレングスとコンディショニングの強化を組み込んでクロストレーニングしています。「週に最大30時間、トレーニングします。トライアスロンはマルチスポーツなので、レースのシーズン中はそれほどたくさんクロストレーニングをする必要はありませんが、ストレングストレーニングやヨガ、ストレッチングは補強練習にぴったりですね」
プロアスリートが世界の舞台で戦うためにトレーニングする場合、セッションには毎回、特定の目的があります。ラングリッジにとって、クロストレーニングのエクササイズを取り入れるのは「筋力、柔軟性、回復力を高めること」が目的とのこと。
他の人にとっては、クロストレーニングは総合的なフィットネスや持久力強化のためにやるものかもしれません。けれども、レースに注力するアスリートであれ運動初心者であれ、新しいスポーツを通じて仲間を見つけたり、モチベーションを維持したりすることが目的になることもあるでしょう。特に初心者であれば、クロストレーニングをややこしく考える必要はありません。また、クロストレーニングはHIIT(高強度インターバルトレーニング)とは別物ですが、アスリートの中にはクロストレーニングにインターバルトレーニングを組み込む人もいます。
ラングリッジは毎日、朝一番に、自身の状態をありのままに見つめることを習慣づけています。
「毎朝、モビリティとアクティベーションのエクササイズをやって自分の身体がどう動くかを確認し、筋肉を正しいパターンで活性化できるようにしています。また、長期のトレーニング期間中は週2回ジムに行って、ストレングスとコンディショニングのための本格的なセッションをこなします」
「毎朝、モビリティとアクティベーションのエクササイズをやって自分の身体がどう動くかを確認しています」
競技トライアスロンを目指してこれからトレーニングを始めようと考えている人に対しては、クロストレーニングの重要性を見落とさないこと、ただし、まずは短時間のセッションから始めて質の高い運動をすることをすすめています。
「自分が現実的にできることを見極めて、達成可能な小さな目標を立てていきましょう」―― そうラングリッジはアドバイスします。「一貫して取り組むことが大事です。どれだけの時間を使えて、何を期待するのかを確認しながらやれば継続的に取り組んでいけるし、怪我もしにくくなります」と彼女は言います。「もしかすると最初から絶好調にできるかもしれませんが、自分のエネルギーをコントロールすることを忘れないで」
新しいスポーツを始める時、クロストレーニングやリカバリータイムについてあまり考えずに飛び込んで、ついやり過ぎてしまうというのはよくあることだとラングリッジは指摘します。「普段のトレーニングをレベルアップして特定のスポーツに集中しようと思う場合、クラスやトレーニンググループに参加したり、プロのコーチングを受けたりするのがおすすめです。セルフコーチングのガイドはYouTubeなどで見ることができますが、運動強度を上げるならば必ず段階的に進めていくべきです。怪我をする羽目になれば、肉体的にも精神的にも最悪ですからね」
とにかく楽しむことがすべてという活発な子供時代を過ごしたラングリッジ。一人で長距離を走らなければならないレースとは対照的に、ジムは日常的な仲間づくりができる場でした。2023年のアイアンマン・オセアニア大会での金メダルを始め、持久系レースで数々のメダルをものにしてきた彼女ですが、有酸素運動よりもジムで鍛える方が楽しいと語ります。
「私は筋トレが大好き。有酸素運動よりもジムの方が好きですね」とラングリッジ。「ジムでは毎回、たとえ1レップ、あるいは持ち上げる重量が数キロ増えただけでも自分の上達が目に見えて分かりますよね。でも水泳や屋外ランニングだと成果はすぐには分かりません」
「私は筋トレが大好き。有酸素運動よりもジムの方が好きですね」
彼女は普段、英国バース大学のジムでトレーニングしていますが、そこはフレンドリーでサポートを得やすい空間だそう。「ジムに来ているパフォーマンス強化チームや学生たちは、自分の専門のスポーツが何であれ、もっと腕を上げようと思ってクロストレーニングしています。やる気を高めてくれる環境なので、私もいっそう楽しんでやっています」
どれほどジムが好きでも、クロストレーニングがやり過ぎになってしまうかどうかは人によって異なります。メインのスポーツにいつ集中して、いつクロストレーニングをし、いつ休息すべきかを正しく理解するためには、自分自身で経験を積むか、または資格を持ったコーチの指導を受ける必要があります。
一種目のトレーニングを過剰にやってしまいがちな人は、クロストレーニングをすれば強度をやや下げることができ、怪我を繰り返すリスクも減らせます。負荷のより低いクロストレーニング(たとえば、トラックランニングよりも呼吸に集中できる楽な水泳)を取り入れるのもおすすめで、これならアクティブに運動できたという心理的満足感も得られます。ラングリッジは、自分の心と身体の本当のニーズに耳を傾けようと言います。
「トライアスロンのトレーニングをしていて、なおかつエネルギーが有り余ったら、マッサージを受けたり、文字通りただ座って何もしないでいたりするのがいいんです」
クロストレーニングで何をするかは、メインの運動のトレーニングを中心に決めればいいとのこと。ラングリッジはシンプルに、「とにかくいろいろなタイプの運動を試みればいい」とすすめます。
彼女自身がオフシーズンや冬の季節、”遊ぶ時間がたくさんある時期” に好んでやっているのは、肉体的な問題解決を通じてフロー状態に入ることができる全身運動のアドベンチャーアクティビティ。
「ロッククライミングのようなアクティビティは、トライアスリートのオフシーズンのクロストレーニングにぴったりです。クライミングは全身運動ですからね。肩や腕を鍛えることができ、たとえば泳ぐ時に必要となる多種多様な筋肉群を活性化できます」
クロストレーニングは、自分自身が楽しめて、なおかつメインのスポーツで使う運動能力を補完できる対極的な種目を選ぶとよい、とラングリッジはアドバイスします。
「トライアスロンでやることはすべて前方への運動なので、そうでない動きをするのはとてもいいことです。もっとも、レースシーズン中はあまりクロストレーニングはできませんけどね。特にサッカーやスキーなど、怪我のリスクが高いスポーツのクロストレーニングはしないようにしています」
そしてこれこそまさに、エリートアスリートのゴールと、日常的にランニングやジムを楽しむ一般人のゴールが一致するところと言えるでしょう。よく練られたクロストレーニング計画には、長期的に体力を維持し怪我をしないようにデザインされたエクササイズが含まれます。それによって、コンディションを整えながらトレーニングでき、レース当日の本当に必要な時に力を出し切ることができるようになるのです。
ラングリッジがすすめるトライアスロンとクロストレーニングのための最適ギア
スイム:一番重要なのは、快適なフィット感で自信が持てる水着を選ぶこと。これは人によって見方も感じ方も違うかもしれません。身も心も気持ちよくレース本番に臨めることが大事です。
バイク:保温性の高いビブタイツと、軽量でウォータープルーフのジャケットは必須。ジャケットは、1つあれば冬のロングライドを快適にこなせます。
ラン:レース用ランニングシューズとは別に、オフ用にトレイルシューズも持っておくといいでしょう。クロストレーニングの考え方と同じで、レースとレースの間は舗装されていないオフロードを走るようにすれば、運動のバラエティが広がり楽しく続けていくことができます。
その他:SPF 30以上の日焼け止め、トレーニング後の栄養補給にスムージーを作るためのブレンダー、血行を良くし、こわばった筋肉をほぐしてくれるトリガーポイントボール。それから、クロストレーニングに役立つジム用シューズ。おすすめはCloud X 3。